前払費用を経費にすることで節税する方法【会社決算のポイント③】

【会社決算のポイント③】短期前払費用を経費に入れる

当期中に支払った家賃や保険料などの経費であっても、それが実際には翌期以降の期間分を前払いしているような場合には、当期の費用に計上することはできません。

このような支払いを「前払費用」と言います。

しかし、「前払費用」のうち一定のものについては、その支払時に一括で費用計上することができる場合があります。

今回は、前払費用のうち当期の費用に計上できるものについてご説明します。

基本的に、会社の決算や税務申告については、ご自身で全てを行うのではなく、少なくとも税務申告については税理士にお任せいただくことが一般的です。
このシリーズでは、会社の決算や記帳についてはご自身で帳簿付けをされおり、決算や税務申告を税理士に依頼している方を対象としていますが、税理士に記帳まで全てお願いしている方であっても、決算にあたって税理士と相談する際に必要な知識となりますので、ぜひご一読ください。

個人事業者で青色申告をされている方も基本的には同様ですので、個人の方もぜひ参考にしてください。

【会社決算のポイント③】短期前払費用を経費に入れる

前回のおさらい

「前払費用」とは、契約に基づき、継続してサービスの提供を受けるために支払ったもので、期末においてまだサービスの提供を受けていないようなものを言います。

【前回の記事】
【会社決算のポイント②】未払費用を計上する

例えば、家賃や保険料、リース料、サーバー利用料など、一般的に毎月定額で請求されるような支払いで、翌月分を前月末までに支払うようなものが該当します。

これらのものは、原則的には上記の通り、その対象となる月(実際にサービスを受ける月や契約期間)に費用として計上することになります。

また、「前払金」とは、主に単発(スポット)で仕事を依頼した場合などに、サービスの提供が完了する前に支払ったものを指します。

例えば会社のホームページ作成を外部業者に委託した際に、着手金として一部支払った金額は、そのホームページが完成するまでの間は、「前払金」として処理することになります。

短期前払費用とは?

支払時に費用計上できる「前払費用」

既に当期中に支払っていても、期末においてまだサービスの提供を受けていないようなものは、税務上は費用にすることはできませんので、決算時に「前払金」または「前払費用」として処理することになります。

ただし、「前払費用」のうち、支払った日から1年以内にサービス提供を受けるものであれば、その支払った年度に一括で費用として計上することが認められています。

このような費用を、「短期前払費用」と言います。

税務上は、次のような要件を満たすものが、「短期前払費用」に該当します。

①前払費用農地、支払日から1年以内に役務提供を受ける費用

②役務提供の期間が1年以内であること

③毎期、継続してその支出した年度に費用計上すること

短期前払費用の費用計上が認められているのは、そもそも前払費用が「継続してサービスの提供を受ける」ことを前提としているため、たとえ支払時に一括で費用計上したとしても、毎年の費用の金額は一定になるからです(料金の改定があった場合や契約開始時・解約時などを除く)。

そのため、この特例を適用するためには、毎期継続して同じ処理をするという条件が付いています。

対象となる費用

一般的には、次のようなものが短期前払費用の対象となります。

・事務所家賃
・リース料や賃借料
・保険料
・支払利息
・支払保証料 など

注意すべき点

対象とならない費用

前払費用は「一定の契約に基づき、継続してサービスの提供を受けるために支払ったもの」という前提がありますので、これに該当しないような費用は、「短期前払費用」の適用はできません。

例えば、「前払給料」や「前払旅費」などは該当しませんのでご注意下さい。

さらに、複数年分の費用をまとめて支払う場合において、そのうち1年分だけを「短期前払費用」として処理することはできません。

例えば2年分を一括で前払いした場合は、そのうち当期の期間に対応する部分だけが当期の費用となり、残りの部分は「前払費用」として来季以降の費用に繰り越すことになります。

今年だけ1年分の前払いをするもの

「短期前払費用」を支払い時に一括して費用計上するためには、毎年「継続処理」をしていることが要件とされています。

そのため、例えば今年だけ利益が出たので1年分を前払いして、今期の費用として計上するような処理は、利益操作と見られて認められない可能性があります。

税務調査で指摘されることが多い事項

なお、よく税務調査で指摘を受けることが多いのが、上記で挙げたホームページの着手金や、雑誌などの広告掲載料の計上タイミングです。

まず、これらの経費は「一定の契約に基づき、継続してサービスの提供を受けるために支払ったもの」には該当しませんので、「短期前払費用」の適用はありません。

さらに、ホームページの制作費用については、検収をして納品が終わり、実際にウェブ上に公開されたときに完了したものとされますので、その時点までは費用計上できず、「前払金」として処理することになります。

雑誌などの広告掲載料についても、その雑誌が発売されるまでは費用にできませんので、同じく「前払金」として処理しなければなりません。

さいごに

節税対策として「短期前払費用」を適用することを考えた場合、その節税効果があるのは最初の年度だけです。

翌期以降は、継続して同様の処理を行うことになりますので、費用に計上できる金額は概ね一定となります。

一定期間分を一括して前払いをすることで割引を受けられる場合や、支払の事務負担や振込手数料などの削減を図りたい場合には、この特例の適用を検討しても良いかと思います。

←前の記事
【会社決算のポイント②】未払費用を計上する

次の記事【会社決算のポイント④】残高を合わせる

【はじめての決算】
①そもそも「決算」とは?
②決算整理とは?
③税務申告で作成する書類は?
④申告しないとどうなるか?

<その他、会社決算に関する記事>

【会社決算のポイント】
【会社決算のポイント①】発生主義とは?
【会社決算のポイント②】未払費用を計上する
【会社決算のポイント③】短期前払費用を経費に入れる
【会社決算のポイント④】残高を合わせる
【会社決算のポイント⑤】減価償却費を計算する
【会社決算のポイント⑥】少額減価償却資産の処理方法
【会社決算のポイント⑦】固定資産か修繕費か
【会社決算のポイント⑧】棚卸しをして在庫を計上する
【会社決算のポイント⑨】消費税や法人税の期末処理
【会社決算のポイント⑩】その他の決算処理

【法人の決算に向けて】
【法人の決算に向けて①】領収書がない費用を計上しなかった場合
【法人の決算に向けて②】役員に対する貸付金がある場合
【法人の決算に向けて③】自宅を法人の事務所として使用している場合
【法人の決算に向けて④】個人事業で使っていた資産を引き継ぐ
【法人の決算に向けて⑤】法人設立前の費用を忘れずに計上する
【法人の決算に向けて⑥】開業費を経費に算入する
【法人の決算に向けて⑦】法人設立前の売上については、個人で確定申告が必要

【法人税の申告調整】
【法人税の申告調整①】役員報酬を期中に減額した
【法人税の申告調整②】期末に役員賞与や親族への賞与を未払計上した
【法人税の申告調整③】交際費の計算(区分)
【法人税の申告調整④】貸倒損失
【法人税の申告調整⑤】税金の調整(費用になるもの、ならないもの)

決算や申告がはじめての法人のお客様へ

このシリーズでは、簿記や経理をある程度理解している方を前提として、決算整理の際に注意すべき点をご説明していきます。

基本的には、帳簿だけをご自身で作成して、決算書や税務申告書の作成を税理士(会計事務所)に依頼しているような方を対象としてご説明します。

「どうせ赤字だから、決算や申告が少しくらい間違っていても大丈夫だろう」
「うちは規模が小さいから、税理士や会計事務所に頼むまでもない」
「会計ソフトを使えば自分でも作れそうだから、わざわざ高い報酬を払ってまで税理士に依頼するのがばかばかしい」

・・・実際にこういったお話をお聞きすることも多いです。

しかし、間違いが多い決算申告では銀行にも税務署にも信用されませんし、経営判断や節税対策には全く使えません。
また、個人事業の確定申告と比べると、法人の決算や申告は格段に難易度が高くなりますので、ご自身で正しい決算申告をすることは非常に難しいと思います。

私どもの事務所では、お客様の方で会計ソフトへの入力が済んでおり、決算や税務申告だけを頼みたいというご依頼もお引き受けしております。

もちろん、会計ソフトへの入力まで丸投げしたいというお客様や、日々の節税相談をご希望のお客様、更には過去数年分の申告をまとめて依頼したいという法人の方も、ぜひ一度ご相談ください。

お問い合わせ・無料相談

下島聡司税理士事務所
  • 対応地域
    杉並・中野・吉祥寺をはじめ東京・神奈川・千葉・埼玉ほか関東全域、日本全国対応
  • 事務所
    〒167-0042
    東京都杉並区西荻北2-3-9
    トラストビル5F
  • 連絡先
    03-6454-7471
    contact@shi-tax.com