海外のデザイナーにデザイン料を支払う場合【国際取引の税務~支払編・事例⑥〜】
海外のデザイナーにデザイン料を支払う場合や、海外の設計会社に設計料を支払う場合など、その支払いに源泉徴収が必要かどうかの判断に迷うケースがあります。
今回は、著作権などの「使用料」に該当するデザイン料の支払いについてご説明しています。
【支払編・事例⑥】海外のデザイナーに支払うデザイン料
- 【質問】
海外のデザイナーに支払うデザイン料に源泉徴収は必要か? -
当社ではゲームソフトの製作を行っていますが、今回から海外のデザイナーにゲームに登場するキャラクター及び背景のデザインを一部外注することにしました。
デザイン料は、1図案当たり○○円という金額設定にしています。
そのデザイナーは個人の方で、契約書等は特に取り交わしておらず、主にメールにより発注や成果物であるデザインの受け渡しなどを行っています。
このような場合、そのデザイナーの方に支払うデザイン料は源泉徴収が必要でしょうか?
ご質問への回答
海外の個人の方に支払うデザイン料については、それが著作権などの権利の譲渡に当たるのか、それとも単なる作業の委託(人的役務提供)に当たるのかで、取扱いが異なります。
ご質問の件では、特に契約書等において著作権の帰属について記載していないとのことですので、原則的には著作権の譲渡に該当するものとして、源泉徴収を行う必要があるのではないかと考えられます。
なお、その相手先の方が居住する国との間に租税条約が締結されている場合には、源泉徴収の減免を受けられる可能性もあります。
解説
「使用料」に関する国内法の取扱い
非居住者等(海外の会社や個人など)に対して、以下に掲げるような特許権や著作権、設備の使用料といった支払いをする場合には、その支払者が日本国内の業務に使用するものについて、20.42%の源泉徴収が必要とされています。
このような支払いを、「使用料」と言います。
(1)工業所有権等その他の技術に関する権利、特別の技術による生産方式若しくはこれらに準ずる者の使用料又は譲渡による対価
(2)著作権(出版権及び著作隣接権その他これに準ずるものを含む。)の使用料又はその譲渡による対価
(3)機械、装置、車両、運搬具、工具、器具及び備品の使用料
上記のうち、(2)の著作権の使用料とは、著作物の複製、上演、演奏、放送、展示、上映、翻訳、編曲、脚色、映画化その他著作物の利用又は出版権の設定につき支払われる対価及び著作権の譲渡の対価の一切とされています。
「著作物」について税法上の定義はありませんが、著作権法を参照しますと、小説、絵画、映画、写真、建築物などの思想又は感情を創作的に表現したものであり、文芸・学術・美術又は音楽の範囲に属するものとされています。
すなわち、本件におけるゲームキャラクターや背景のデザインについても、これら著作物の範囲に含まれるものと考えられます。
その場合、次にご説明する租税条約の適用がなければ、その支払額の20.42%の源泉徴収が必要となります。
「使用料」に関する租税条約の取扱い
多くの租税条約において、著作権の対価は「使用料」として取り扱われており、源泉徴収の減免の措置が置かれています。
「著作権」の範囲としては、「文学上、芸術上若しくは学術上の著作物(映画フィルムを含む。)の著作権」とされており、それ以上の詳細な定義については、国内法における用語の意義を参照するような規定となっていることが多いため、一般的には上記「国内法の取扱い」と同様の取扱いになるものと考えられます。
租税条約上の減免措置としては、アメリカやイギリスなどのOECDモデル条約と同じ規定をしている条約については免税、その他中国や韓国など10%の軽減税率を採用している国が多いですが、取扱いは国(条約)によって異なりますので、必ずそれぞれの租税条約を確認する必要があります。
なお、租税条約の適用を受ける場合には、租税条約届出書の提出など所定の手続きが必要となります。
著作権の使用料か、人的役務提供の対価か
著作権が発注元の会社に帰属するものとする契約等がある場合には、役務提供の対価に該当するとする取扱いがされるケースも想定されます。
所得税法上、技術等を提供し又は伝授するために提供された図面等の物又は人的役務の提供のうち、次に掲げるものは使用料に該当し、その提供が行われた地に源泉がある所得であるものと規定されています。
(1)その対価が、図面等の使用回数、期間、生産高又はその使用による利益の額に応じて算定されたもの
(2)その対価が、図面等の作成又は人的役務の提供のために要した経費の額に通常の利潤の額を加算した金額に相当する金額を超えるもの
上記(2)の「経費の額」や「通常の利潤の額」を算定することは困難ですが、一般的にデザインなどの図面には著作権等の権利が含まれるものと考えられることから、特段の取り決めがされていないようであれば、使用料として取り扱うのが妥当であると考えられます。
なお、もし人的役務提供の対価と認められる場合には、その委託先の者が日本に拠点等を有しておらず、かつ、日本国外でその役務提供を行う場合には、租税条約の適用により源泉徴収が不要とされるケースが多いものと考えられます。
【参考記事】
海外の大学教授に講演料を支払う場合
源泉徴収の手続き
源泉徴収の手続きについては、こちらの記事を参照下さい。
【参考記事】
【国際取引の税務~支払編④~】源泉徴収の手続き(租税条約届出書、納付、法定調書)
租税条約の適用を受けることができる場合には、こちらの記事も参照ください。
【参考記事】
【国際取引の税務~支払編⑥~】租税条約による特例を受けるための手続き
参考条文
所得税法161七号
所得税基本通達161-23、同161-36
各国との租税条約、OECDモデル条約12条
著作権法2条 ほか
当ブログでは、代表的な事例を基に基本的な考え方をご紹介しておりますので、全てのケースに該当するものではありません。
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(更新予定)
海外企業に支払いをする際に気をつけること
源泉徴収の要否を判定する(基本的な流れ)
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