海外への支払いで税務調査で指摘されることが多いケース【国際取引の税務~支払編・事例⑪~】

【国際取引の税務~支払編・事例⑪~】税務調査で指摘されることが多いケース

海外展開している会社に税務調査が入ると、税務調査官が定番で確認するポイントというのがいくつかあります。

今回はその中でも、源泉徴収に関連したものをひとつご紹介したいと思います。

多くの会社が、今回ご紹介する点について対応できていないと思いますので、ご自身の会社の状況を確認されることをお勧めします。

【支払編・事例⑪~】税務調査で指摘されることが多いケース

 

【質問】
海外支店で使用している事務機器のリース料に源泉徴収が必要?

当社では、数年前から中国や韓国、東南アジアを中心に海外展開を勧めており、それぞれ現地に支店を設けて営業活動を行っています。

このたび、税務署による税務調査があり、源泉所得税について何点か指摘を受けました。

その中で、海外支店で使用しているコピー機や営業用車両のリース料について、日本で源泉徴収が必要なものがあると言われたのですが、これは正しいのでしょうか?

 

 

ご質問への回答

ご質問のように、海外の支店や営業所、駐在員事務所などで使用する機械設備や事務機器、車両などをリースにより導入している場合には、そのリース料について日本で源泉徴収が必要となるケースがあります。

日本において源泉徴収が必要になるかどうかは、その相手国との租税条約の内容によって異なりますので、進出先の国ごとに確認が必要となります。

 

解説

「使用料」に関する国内法の取扱い

非居住者等(海外の会社や個人など)に対して、以下に掲げるような特許権や著作権、設備の使用料といった支払いをする場合には、その支払者が日本国内の業務に使用するものについて、20.42%の源泉徴収が必要とされています。

このような支払いを、「使用料」と言います。

(1)工業所有権等その他の技術に関する権利、特別の技術による生産方式若しくはこれらに準ずる者の使用料又は譲渡による対価

(2)著作権(出版権及び著作隣接権その他これに準ずるものを含む。)の使用料又はその譲渡による対価

(3)機械、装置、車両、運搬具、工具、器具及び備品の使用料

 

ご質問のケースでは、海外の支店で使用する事務機器や車両をリースで導入しているとのことですので、国内法に基づけば、そのリース料の支払いについて源泉徴収の必要はありません。

ただし、もし支払先であるリース会社の居住国との間に租税条約が締結されている場合には、源泉徴収が必要とされるケースもありますので、注意が必要です。

具体的な取扱いは締結されている租税条約に応じて異なりますが、以下参考までにご確認ください。

 

「使用料」に関する租税条約の取扱い

租税条約においては、設備の賃貸借に係る対価について、国内法とは異なる取扱いをしています。

具体的には、次のような種類に分けられます。

(1)事業所得として取扱うもの
(2)使用料として取扱うもの
(3)使用料の範囲からは除いているもの

このうち、(1)については、その支払先の会社や個人が、日本に拠点を有してビジネスを行っている場合(これを税法用語で「PE(恒久的施設)」と言います)を除き、日本において課税されることはありません。

従って、今回のケースに限って言えば、その所在国との間の租税条約がこのパターンであれば、源泉徴収は不要となります。

また、(3)の場合も、設備のリース料などを使用料の範囲から除いており、かつ租税条約に特段の規定が設けられていなければ国内法が適用されるため、国外で使用する設備のリース料が源泉徴収の対象にはなりません。

 

一方で、(2)の場合には、日本において源泉徴収が必要となるケースがあります。

多くの租税条約においては、使用料について、「産業上、商業上若しくは学術上の設備の使用若しくは使用の権利の対価として受領するすべての種類の支払金をいう」と規定されています。

「設備」の定義について明確な規定はありませんが、日本の税務執行上は、一般的に機械や事務機器、車両などが該当するものとされていますので、今回のご質問にあるようなコピー機や営業車は、「産業上、商業上若しくは学術上の設備」に該当するものと考えられます。

 

租税条約による源泉徴収の判断

上記(2)について、もう少し詳しくご説明したいと思います。

ここで注意したいのが、その設備をどこで使用しているか?という点です。

 

国内法では「日本国内の業務に使用するものについて」源泉徴収が必要とされていました。

すなわち、使用した場所に応じて源泉徴収の要否を判断するというもので、このような考え方を「使用地主義」と言います。

 

しかし、租税条約ではこの考え方を取らずに、その支払者の所在地国において源泉徴収できるものとする規定を取っている条約がほとんどです。

このような考え方を、その支払者に注目したものということから、「債務者主義」と言います。

 

これ以上の詳細な説明は税務に詳しくない方には難解ですので省きますが、このように国内法と租税条約で異なる考え方(「使用地主義」か「債務者主義」か)が取られている場合、日本の税法上は、租税条約の考え方を優先するという規定になっています。

従って、上記(2)で設備の賃借料を「使用料として取扱う」ものとしている租税条約の場合は、いくら海外で使用している設備や車両であっても、そのリース料について日本で源泉徴収が必要ということになってしまいます。

 

ただし、その支払先の会社や個人が租税条約の適用を受けられる対象者(税法用語である「居住者」に該当する者)である限りにおいて、租税条約届出書等の所定の手続きを行うことにより、源泉徴収税率の減免(軽減又は免除)を受けられます。

 

上記の3パターンのうち、具体的に(1)(2)(3)のどれに該当するかは、その締結されている租税条約に応じて国ごとに異なります。

その支払いの内容や使用状況等を詳しく確認した上で、慎重に検討を行わないと源泉徴収が漏れてしまうケースがとても多いので注意が必要です。

 

源泉徴収の手続き

源泉徴収の手続きについては、こちらの記事を参照下さい。

【参考記事】
【国際取引の税務~支払編④~】源泉徴収の手続き(租税条約届出書、納付、法定調書)
【国際取引の税務~支払編⑥~】租税条約による特例を受けるための手続き

 

国外払いの場合

今回のご質問のケースでは、海外の支店からリース料を支払っているとのことですので、「国外払い」に該当します。

そのため、源泉所得税の納期限は、その支払いの日の属する月の翌月末日となります。

 

税務調査で源泉徴収漏れを指摘された場合

今回のようなケースの場合、税務調査において源泉徴収漏れを指摘されるケースが多く見受けられます。

税務調査で源泉徴収漏れの指摘を受けた場合には、その後の流れは一般的に次の通りとなります。

 

(1) 源泉税額とペナルティの納付

厳密に言えば、まず本来納めるべきであった20.42%と、実際に納付した10%との差額部分について税務署に納付します。

例えば1,000,000円のリース料について源泉徴収漏れを指摘された場合、追加納付する税額は次の通りです。

源泉所得税 1,000,000×20.42%=204,200円
不納付加算税 200,000円×10%=20,000円
延滞税 200,000円×延滞税率(※)

 

※本来納付すべき期限からの期間に応じて計算されます。延滞税率はその対象となる期間によって税率が異なりますが、平成29年3月現在では、2.7%(納期限の翌日から2月を経過する日まで)及び9.0%(納期限の翌日から2月を経過した日以後)となっています。

 

(2) 租税条約の適用による減免部分の還付請求

租税条約により源泉徴収税率の減免を受けられる場合には、『租税条約届出書』と『租税条約に関する源泉徴収税額の還付請求書』を提出して、その追加納付した差額分の税額の還付を受けることになります。

結局は還付されるので同じように見えますが、その差額相当については納税が漏れていたことになるので、不納付加算税や延滞税などのペナルティは負担しなければなりません。

【参考記事】
【国際取引の税務~支払編⑧~】支払先から租税条約の適用を受けたいと言われたら

 

(3) 支払先に対して過払いとなっている金額を請求する

現状では支払先のリース会社に対して、本来は源泉徴収すべき支払いについて、源泉徴収税額を天引きせずに、誤って税込金額を過払いしている状態です。

税法上は、支払先のリース会社に源泉税額相当額を返還してもらうように請求するか、もしその後に支払うべきリース料があれば、これと相殺することが認められています。

ただし実務上は、支払ってから相当期間が経過していることが多いため、返還請求できないようなケースも見受けられます。

 

なお、もし相手先に請求できるような場合でも、請求できるのはあくまでも源泉所得税本税のみですので、不納付加算税や延滞税は源泉徴収義務者である貴社(支払者)であることにご注意下さい。

 

参考条文

所得税法161条七号、同178条、同212条、同213条、同221条、同222条
各国との租税条約、実施特例法 ほか

 

 

当ブログでは、代表的な事例を基に基本的な考え方をご紹介しておりますので、全てのケースに該当するものではありません。
詳細な検討や解答をご希望の方は、顧問税理士にご相談いただくか、弊社までお問い合わせ下さい。

 

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