海外の親会社に借入金利子を支払う場合の源泉徴収【国際取引の税務~支払編・事例⑱〜】

外資系企業の日本子会社の場合、海外の親会社から資本金以外に借入金を受けていることが多いと思います。
借入金の利子を支払う場合には、その利率をいくらにするのかという論点もありますが、源泉徴収についても気を付けなければなりません。
今回は、海外の親会社に対して借入金利子を支払う場合の取扱いをご説明します。
【支払編・事例⑱】海外の親会社に借入金利子を支払う場合
- 【質問】
海外の親会社から借入金を受けた場合に気を付けるべきことは? -
当社は外資系企業の日本子会社で、日本において設立登記をしていますので、税法上は内国法人に該当します。
当社は業務拡大のため新たな設備投資と人材確保を進めることとなり、海外の親会社から借入をすることになりました。
この場合に、源泉徴収など税務上気を付けなければならないことはありますでしょうか?
ご質問への回答
ご質問のように、海外の親会社から借入をした場合には、その借入金の利子について、一般的に源泉徴収が必要となります。
さらに、その借入金が外貨建てか円建てか、利率はどのように決められたのか、また利子の支払方法はどうなっているかなど、詳細な確認が必要となります。
解説
国内法の取扱い
非居住者又は外国法人から国内において行う事業に関する借入を行い、その借入につき利息を支払う場合には、その支払う利子等の総額に対して20.42%の源泉徴収が必要とされています。
なお、この場合の借入には、いわゆる貸付金だけでなく、預け金や前払金等の名称の如何を問わずその実質が貸付金である者及びこれらに準ずるものが含まれるものとされています。
ただし、その借入金を国外における事業のために使用する場合には、源泉徴収が不要とされる場合もあります。
租税条約の取扱い
日本が締結している租税条約においても、一般的には国内法と同様の取扱いとなります。
ただし、租税条約届出書の提出など所定の手続きを行うことにより、源泉税率の減免を受けることができます。
一部の例外を除き、多くの国との租税条約で規定されている源泉税率は10%となっています。
利子の「支払」の意義
上記の借入金の利子について源泉徴収が必要となるのは、「支払の際」や「支払をする際」とされています。
この「支払」については、現実に金銭を送金したり振り込んだりする行為だけでなく、元本に繰り入れたり、預金口座に振り返るなどその支払の債務が消滅する一切の行為が含まれるものとされています。
その他の留意事項
(1)外貨建てか円建てか
借入金の元本が外貨建てなのか、それとも円建てなのかによって、支払う利息金額が変わってくるだけでなく、帳簿への記載金額や、源泉徴収税額まで影響がありますので注意が必要です。
さらに、もし融資契約の金額が外貨建てであった場合には、借入期間が長期なのか短期なのかによって、期末時点に為替換算の要否を判定しなければなりません。
当たり前のように見えますが、外資系企業の日本子会社に対する税務調査で間違いが指摘されることの多い論点ですので、注意が必要です。
(2)利率の決定方法
利率については、親会社側で決めるようなケースが多く、日本の子会社からすると高い利率となっている場合もあるかと思います。
税法の世界では、基本的に第三者との間で行われる取引と同等の価格(利率)で取引をしなければならないというルールがあり、資金の貸付けに係る利率についても、高過ぎる利率を支払っていると税務調査で否認される(費用の一部又は全部が認められない)場合があります。
特に、その利率が親会社側の調達利率を基に決定されている場合などには注意が必要となります。
これらは移転価格税制という特殊な税務論点が含まれますので、移転価格税制や外資系企業の税務に詳しい専門家にご相談いただくことをお勧め致します。
(3)利子を元本に繰り入れる場合
利子の支払方法は、通常であれば1ヶ月ごとや半年ごと、1年ごとなどの期間で利息を計算し、元本の返済と合わせて支払うことが一般的かと思われます。
しかし、資本関係のある親子会社においては、定期的に元本の返済がなされず、利息を元本に繰り入れるようなケースも見受けられます。
利息を元本に繰り入れる場合には、実際にキャッシュが移動していないため、源泉徴収が不要と勘違いしてしまう方が多く、税務調査での指摘が多い事項でもあります。
上述のとおり、利息の元本組み入れも「支払」になりますので、元本に繰り入れる金額を調整するか、または親会社から源泉徴収税額相当額を受け入れる必要がありますのでご注意下さい。
源泉徴収の手続き
源泉徴収の手続きについては、こちらの記事を参照下さい。
【参考記事】
【国際取引の税務~支払編④~】源泉徴収の手続き(租税条約届出書、納付、法定調書)
租税条約の適用を受けることができる場合には、こちらの記事も参照ください。
【参考記事】
【国際取引の税務~支払編⑥~】租税条約による特例を受けるための手続き
参考条文
所得税法161条六号
所得税法施行令283条
所得税基本通達161-15、同161-16、同161-20、同181~223共ー1
各国との租税条約 ほか
※本稿においては親子間の貸付金取引についてご説明しており、公社債や預貯金の利子、銀行などの金融機関からの融資の場合には取扱いが異なる可能性がありますのでご留意下さい。
当ブログでは、代表的な事例を基に基本的な考え方をご紹介しておりますので、全てのケースに該当するものではありません。
詳細な検討や解答をご希望の方は、顧問税理士にご相談いただくか、弊社までお問い合わせ下さい。
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海外企業への支払いに関するテーマで、ブログを更新しています。
ご興味のあるテーマをぜひご講読ください。
(更新予定)
海外企業に支払いをする際に気をつけること
源泉徴収の要否を判定する(基本的な流れ)
源泉徴収しないとどうなるか
源泉徴収の手続き(租税条約の届出、納付方法、法定調書など)
海外企業に仕入れ代金を支払う場合
海外企業にロイヤルティを支払う場合
海外企業にソフトウェア開発の委託費を支払う場合 など
現時点で公開済みの国際税務関連の記事は、随時こちらのページにまとめていきます。
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代表税理士 下島聡司