決算では具体的に何をするの?【はじめての決算②】
起業をして新規に法人を設立したり、個人事業から法人成りをして会社を作ったばかりの方は、法人設立後1年以内に初めての決算を迎えます。
税理士に記帳から丸投げしていたり、少なくとも決算や税務申告だけは税理士に依頼している方がほとんどかとは思いますが、もしかすると自力でやってしまおうと考えている経営者の方もいらっしゃるかもしれません。
今回は、決算手続のひとつである「決算整理」についてご説明します。
税理士に依頼しない場合、この「決算整理」ができておらず、間違いが多い決算書を作成して申告してしまっているケースが非常に多いです。
税理士に依頼している方も、依頼していない方も、具体的にどのようなことを行う必要があり、どんな点に注意したら良いのかをご確認ください。
基本的に、会社の決算や税務申告については、ご自身で全てを行うのではなく、少なくとも税務申告については税理士にお任せいただくことが一般的です。
このシリーズでは、会社の決算や記帳についてはご自身で帳簿付けをされおり、決算や税務申告を税理士に依頼している方を対象としていますが、税理士に記帳まで全てお願いしている方であっても、決算にあたって税理士と相談する際に必要な知識となりますので、ぜひご一読ください。
【はじめての決算②】決算整理とは?
決算整理とは?
帳簿の作成〜決算書まで
ひとくちに「決算整理」と言っても厳密には色々とありますが、中小規模の会社にとっては、
・正しい帳簿になっているかを確認し、必要に応じて修正すること
・税務上の基準に従って、帳簿を調整すること
と考えていただければ結構です。
日々の記帳をする際には、少しくらい勘定科目が間違っていたり、残高が一致しなかったとしても、いちいち訂正していると大変です。
(もちろん、気付いた時に修正した方が後々は楽になります)
しかし、決算ではこれらの間違いを修正して、正しい帳簿と決算書を作成する必要があります。
間違っている帳簿よりは正しい帳簿の方が良いのは当然ですが、もう少し現実的な理由があります。
それは、間違っている帳簿や決算書だと、銀行からも税務署からも信用されない、という大きな問題があるからです。
銀行の場合は、融資を受ける際に決算書が最も大切な判断基準になります。
決算書を見て将来性や返済能力・融資可能額を確認するわけですから、その基となる決算書が間違いだらけだと最悪の場合は相手にしてもらえないかもしれません。
税務署に信用されなければ、税務調査の際に痛くもない所まで探られかねません。
決算書を一度作って税務署に提出してしまうと、これを作り直すのは大変困難です。
銀行は過去3年分くらいの決算書を見ますし、税務調査でも同様です。
最初が肝心ですので、間違いのないように決算整理を行う必要があります。
(もし既に間違った決算書を作ってしまった場合には、修正できるものと修正できないものがあります。そのような場合はまず状況をご相談ください。)
今回は、決算手続きで行う処理のうち、間違いが多いポイントをいくつかご紹介します。
税理士に依頼している会社でも、会社側で理解していないと税理士が気付けない部分もありますので、ポイントだけでも理解して頂ければと思います。
請求済の売上を計上する
起業したばかりの方や、法人成りした方の中には、「入金があったら売上を立てる」と誤解されている方が意外と多くいらっしゃいます。
残念ながら、これは間違いです。
法人税の世界では(個人事業の青色申告でも同じですが)、売上は、現金を受け取った時ではなく、その事実が発生したタイミングで計上するのが原則です。
このような考え方を「発生主義」と言います。
売上があったのは今期中だけど、入金は来期に入ってからという場合は、その売上を今期に計上しなくてはなりません。
税務調査でも優先順位が高い項目になりますので、売上の計上もれがないようきちんと調べる必要があります。
【参考記事】
【会社決算のポイント①】発生主義とは?
※実際に売上を計上する基準としては”実現主義”という考え方が取られますが、ここでは説明の簡便化のために、現金主義との対比として”発生主義”という考え方で説明しています。
期末時点で未払いの費用を計上する
上記で説明した売上と同様に、経費についても「発生主義」により計上します。
つまり、今期中にサービスを受けたり物を購入したものの、支払いは来期になるような買掛金や未払費用があれば、それも費用に計上することになります。
その反対で、既にお金は支払ったものの、サービスを受けたりするのは来期になるものについては、「前払費用」として当期の費用からは除かれることになります。
【参考記事】
【会社決算のポイント②】未払費用を計上する
【会社決算のポイント③】短期前払費用を経費に入れる
売掛金や買掛金、未払費用の残高を合わせる
意外と多いのが、現預金や売掛金、買掛金などの勘定残高(帳簿上の残高)がマイナスとなってしまっているケースです。
期末の残高を合わせるのは、決算の基本となります。
【参考記事】
【会社決算のポイント④】残高を合わせる
減価償却費を計算する
10万円を超える高額の備品などを購入した場合には、その購入した年度に一括で費用計上するのではなく、その備品が使用できる期間(耐用年数)にわたって費用化することになります。
これを「減価償却」と言います。
減価償却費の計算をするのも、一般的には期末の決算時となります。
【参考記事】
【会社決算のポイント⑤】減価償却費を計算する
【会社決算のポイント⑥】少額減価償却資産の処理方法
【会社決算のポイント⑦】固定資産か修繕費か
棚卸をして期末の在庫を計算し、帳簿に計上する
小売業や卸売業を営む会社の場合は、期末時点でまだ売れていない在庫の棚卸しを行い、帳簿の「棚卸資産」等として計上します。
また、小売業以外の会社であっても、購入したものの未使用のものがあれば、在庫として計上しなければならないものがあります。
例えば、未使用の収入印紙や切手、作成しただけで未配布のパンフレットやカタログ、包装資材なども、貯蔵品として計上しなければならないケースがあります。
【参考記事】
【会社決算のポイント⑧】棚卸しをして在庫を計上する
その他
上記以外では、全ての会社に該当するわけではありませんが、
例えば
・引当金の計算をする
・有価証券の評価替えをする
・外貨建資産や負債の換算替えをする
といった決算整理処理もあります。
さらに、これらの決算整理が全て終わったら、法人税や消費税の計算を行い、その結果を再度帳簿に計上することになります。
【参考記事】
【会社決算のポイント⑨】消費税や法人税の期末処理
【会社決算のポイント⑩】その他の決算処理
決算整理以外に、決算時に気を付けたいこと
いわゆる「決算整理」ではありませんが、決算時に気を付けたいことをいくつかご紹介しておきます。
決算時に再確認すべきこと
・個人的な費用が含まれていないか再確認する
・領収書がない費用であっても、経費に計上しているか
→【法人の決算に向けて①】領収書がない費用を計上しなかった場合
・役員に対する貸付金利息を計上しているか
→【法人の決算に向けて②】役員に対する貸付金がある場合
・自宅兼事務所の家賃を計上しているか
→【法人の決算に向けて③】自宅を法人の事務所として使用している場合
法人成りの初年度の場合
・個人事業で使っていた資産の減価償却費を計上する
→【法人の決算に向けて④】個人事業で使っていた資産を引き継ぐ
・法人設立前の費用(創立費や開業費)を漏れなく計上する
→【法人の決算に向けて⑤】法人設立前の費用を忘れずに計上する
・創立費や開業費の償却費を計算する
→【法人の決算に向けて⑥】開業費を経費に参入する
・個人事業としての売上を忘れずに申告する
→【法人の決算に向けて⑦】法人設立前の売上については、個人で確定申告が必要
次回に続きます
次回は、「税務申告で作成する書類は?」というテーマで、具体的な税務申告書の作成書類について概要をご説明します。
→次の記事
【はじめての決算③】税務申告で作成する書類は?
【はじめての決算】
①そもそも「決算」とは?
②決算整理とは?
③税務申告で作成する書類は?
④申告しないとどうなるか?
<その他の関連シリーズ>
【会社決算のポイント】
【会社決算のポイント①】発生主義とは?
【会社決算のポイント②】未払費用を計上する
【会社決算のポイント③】短期前払費用を経費に入れる
【会社決算のポイント④】残高を合わせる
【会社決算のポイント⑤】減価償却費を計算する
【会社決算のポイント⑥】少額減価償却資産の処理方法
【会社決算のポイント⑦】固定資産か修繕費か
【会社決算のポイント⑧】棚卸しをして在庫を計上する
【会社決算のポイント⑨】消費税や法人税の期末処理
【会社決算のポイント⑩】その他の決算処理
【法人の決算に向けて】
【法人の決算に向けて①】領収書がない費用を計上しなかった場合
【法人の決算に向けて②】役員に対する貸付金がある場合
【法人の決算に向けて③】自宅を法人の事務所として使用している場合
【法人の決算に向けて④】個人事業で使っていた資産を引き継ぐ
【法人の決算に向けて⑤】法人設立前の費用を忘れずに計上する
【法人の決算に向けて⑥】開業費を経費に算入する
【法人の決算に向けて⑦】法人設立前の売上については、個人で確定申告が必要
【法人税の申告調整】
【法人税の申告調整①】役員報酬を期中に減額した
【法人税の申告調整②】期末に役員賞与や親族への賞与を未払計上した
【法人税の申告調整③】交際費の計算(区分)
【法人税の申告調整④】貸倒損失
【法人税の申告調整⑤】税金の調整(費用になるもの、ならないもの)
- 決算や申告がはじめての法人のお客様へ
-
このシリーズでは、簿記や経理をある程度理解している方を前提として、決算整理の際に注意すべき点をご説明していきます。
基本的には、帳簿だけをご自身で作成して、決算書や税務申告書の作成を税理士(会計事務所)に依頼しているような方を対象としてご説明します。
「どうせ赤字だから、決算や申告が少しくらい間違っていても大丈夫だろう」
「うちは規模が小さいから、税理士や会計事務所に頼むまでもない」
「会計ソフトを使えば自分でも作れそうだから、わざわざ高い報酬を払ってまで税理士に依頼するのがばかばかしい」・・・実際にこういったお話をお聞きすることも多いです。
しかし、間違いが多い決算申告では銀行にも税務署にも信用されませんし、経営判断や節税対策には全く使えません。
また、個人事業の確定申告と比べると、法人の決算や申告は格段に難易度が高くなりますので、ご自身で正しい決算申告をすることは非常に難しいと思います。私どもの事務所では、お客様の方で会計ソフトへの入力が済んでおり、決算や税務申告だけを頼みたいというご依頼もお引き受けしております。
もちろん、会計ソフトへの入力まで丸投げしたいというお客様や、日々の節税相談をご希望のお客様、更には過去数年分の申告をまとめて依頼したいという法人の方も、ぜひ一度ご相談ください。