入金されたら売上を立てるのは間違い?発生主義について解説します【会社決算のポイント①】
起業したばかりの方や、法人成りした方の中には、「入金があったら売上を立てる」と誤解されている方が意外と多くいらっしゃいます。
残念ながら、これは間違いです。
法人税の世界では(個人事業の青色申告でも同じですが)、売上は、現金を受け取った時ではなく、売上の事実が確定したタイミングで計上するのが原則です。
今回は、会社の決算を行う上で基本となる考え方「発生主義」についてご説明します。
基本的に、会社の決算や税務申告については、ご自身で全てを行うのではなく、少なくとも税務申告については税理士にお任せいただくことが一般的です。
このシリーズでは、会社の決算や記帳についてはご自身で帳簿付けをされおり、決算や税務申告を税理士に依頼している方を対象としていますが、税理士に記帳まで全てお願いしている方であっても、決算にあたって税理士と相談する際に必要な知識となりますので、ぜひご一読ください。
個人事業者で青色申告をされている方も基本的には同様ですので、個人の方もぜひ参考にしてください。
【会社決算のポイント①】発生主義とは?
決算整理とは何かを改めて整理する
決算整理とは、会社が決算を行う上で必要な手続きのひとつです。
ひとくちに「決算整理」と言っても厳密には色々とありますが、中小規模の会社にとっては、
・正しい帳簿になっているかを確認し、必要に応じて修正すること
・税務上の基準に従って、帳簿を調整すること
と考えていただければ結構です。
日々の記帳をする際には、少しくらい勘定科目が間違っていたり、残高が一致しなかったとしても、いちいち訂正していると大変です。
(もちろん、気付いた時に修正した方が後々は楽になります)
しかし、決算ではこれらの間違いを修正して、正しい帳簿と決算書を作成する必要があります。
会計の基本的な考え方を理解する
「発生主義」→「実現主義」→「現金主義」
今回のテーマは「発生主義」ですが、会計や決算を行う上では重要なルールが3つあります。
それは、
「現金主義」「実現主義」「発生主義」
の3つのルールです。
これらの考え方は、収入や費用を、どのタイミングで計上するのかを決めるためのルールになります。
「え?お金をもらったり、支払ったりしたタイミングで会計ソフトに入力すればいいんじゃないの?」
と思われた方もいらっしゃるかもしれません。
このように「お金をもらったり、支払ったりしたタイミング」で収益や費用を計上するという考え方を、「現金主義」と言います。
要は、家計簿をイメージしてもらえばよいかと思います。
これに対して、会社の会計や税務の基本は、「発生主義」というルールに基づいて処理することになります。
敢えて誤解を恐れずにざっくりと言えば、
・モノを売ったタイミング、サービスは提供したタイミングで、それぞれ売上を計上する
・備品などを購入したら、それを使用したタイミングで費用を計上する
というのが「発生主義」の基本的な考え方です。
(会計の世界では「発生主義」と「実現主義」の考え方は異なりますが、ここでは「現金主義とは収益や費用を計上するタイミングが異なるもの」と理解して頂ければ結構です)
言葉の定義を理解するのは難しいですが、ここでは少なくとも、売上や費用を計上するタイミングは、必ずしも現金のやり取りをするタイミングと同じではない、とご理解ください。
経営者の皆様が、会計や税務の全てを理解して頂く必要はありませんが、最低限このルールは知っておいて頂ければと思います。
具体例で説明します
少しだけ、具体例で簡単にご説明します。
(1)売上を計上するタイミング
商品を販売して、翌月末に入金があるようなケースを考えてみます。
当社は3月決算ですが、3月中に商品の納品・引き渡しが終わっていますが、入金は4月末です。
現金主義の場合は、入金があった4月に売上を計上します。
一方で発生主義の場合は、販売をしたタイミングである3月に売上を計上します。
(2)費用を計上するタイミング
費用も同じです。
運送会社を利用して商品を発送し、その運送料は翌月末に支払うようなケースを考えてみます。
当社は同じく3月決算で、3月中に荷物を配達してもらいましたが、その支払いは4月末です。
現金主義の場合は、支払いをした4月に費用を計上します。
一方で発生主義の場合は、配送というサービスを受けたタイミング(3月)で費用を計上します。
(3)減価償却費
「減価償却」という言葉は聞いたことがある方は多いと思いますが、備品などを購入すると一定期間に按分して費用を計上します。
例えば、デザインを行う会社で、40万円という高額なパソコンを現金一括で購入したとします。
できれば2年ごとに買い換えたいところですが、平均的に4〜5年くらいは使用する予定です。
これを「現金主義」で考えると、購入した年度の費用に一括で計上します。
一方で、このパソコンは少なくとも4年間は使用する予定です。
購入した年にだけ使うわけではありません。
当社は、パソコンを使ってデザインをすることで売上が上がるわけですから、40万円のパソコンは毎年の売上に少しずつ貢献していると考えられます。
そこで、このパソコン購入代40万円についても、その使用する期間で按分して費用に計上していきます。
こうすると、毎年の利益は一定になりますので、経営状態をより厳密に分析することができます。
これが「発生主義」の考え方に基づいた費用の計上方法になります。
この記事でお伝えしたいこと
売上の計上もれが一番まずい
今回は「発生主義」という考え方について簡単にご説明してきましたが、この記事でお伝えしたかったのは、「売上を正しいタイミングで計上すること」です。
先ほどもご説明したとおり、売上があったのは今期中だけど、入金は来期に入ってからという場合は、その売上を今期に計上しなくてはなりません。
「もし売上を計上し忘れたら、次の年度に売上を計上すれば良いのでは?」と思われるかもしれませんが、税務調査では厳しく見られます。
と言うのも、確かに、今年の売上にしようが、来年の売上にしようが支払う税金は同じに見えます。
しかし、税務調査で今年の売上漏れを指摘されると、今年の税金についてはペナルティを支払わなければなりません。
このペナルティですが、最大で15%もの税率になります。
例えば10,000,000円の売上計上漏れがあったら、仮に法人税率が19%とすると、追徴税額は1,900,000円、ペナルティ(過少申告加算税)は260,000円です。
更に、延滞税という利息的性格のペナルティも課されてしまいます。
このように、本来計上すべき年度と異なる年度に売上や費用を計上することを「期ズレ」と言いますが、単なる期ズレだから良いだろうと思っていても、意外とペナルティが高くつきますので注意が必要です。
税務調査でも優先順位が高い項目になりますので、売上の計上もれがないようにきちんと処理することが大切です。
売上計上漏れの具体的な確認方法
具体的な確認方法としては、請求書は発行したのに、決算月までに入金がされていないものを洗い出します。
決算月の翌月や翌々月の口座への入金を調べて、その入金が決算より前に売上をしたものではないかを確認してみる、というのも効果的です。
さいごに
今回の記事では、会社の決算を行う上での基本的な考え方(のひとつ)をご紹介しましたが、個々の売上や費用を具体的にどのタイミングで計上すべきかについては、それぞれ決まりがあります。
機会があればこのブログでもご紹介しますが、ご不安な方はご契約されている税理士・会計事務所にご相談ください。
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【はじめての決算④】申告しないとどうなるか?
【はじめての決算】
①そもそも「決算」とは?
②決算整理とは?
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【会社決算のポイント】
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【会社決算のポイント②】未払費用を計上する
【会社決算のポイント③】短期前払費用を経費に入れる
【会社決算のポイント④】残高を合わせる
【会社決算のポイント⑤】減価償却費を計算する
【会社決算のポイント⑥】少額減価償却資産の処理方法
【会社決算のポイント⑦】固定資産か修繕費か
【会社決算のポイント⑧】棚卸しをして在庫を計上する
【会社決算のポイント⑨】消費税や法人税の期末処理
【会社決算のポイント⑩】その他の決算処理
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【法人の決算に向けて①】領収書がない費用を計上しなかった場合
【法人の決算に向けて②】役員に対する貸付金がある場合
【法人の決算に向けて③】自宅を法人の事務所として使用している場合
【法人の決算に向けて④】個人事業で使っていた資産を引き継ぐ
【法人の決算に向けて⑤】法人設立前の費用を忘れずに計上する
【法人の決算に向けて⑥】開業費を経費に算入する
【法人の決算に向けて⑦】法人設立前の売上については、個人で確定申告が必要
【法人税の申告調整】
【法人税の申告調整①】役員報酬を期中に減額した
【法人税の申告調整②】期末に役員賞与や親族への賞与を未払計上した
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【法人税の申告調整④】貸倒損失
【法人税の申告調整⑤】税金の調整(費用になるもの、ならないもの)
- 決算や申告がはじめての法人のお客様へ
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このシリーズでは、簿記や経理をある程度理解している方を前提として、決算整理の際に注意すべき点をご説明していきます。
基本的には、帳簿だけをご自身で作成して、決算書や税務申告書の作成を税理士(会計事務所)に依頼しているような方を対象としてご説明します。
「どうせ赤字だから、決算や申告が少しくらい間違っていても大丈夫だろう」
「うちは規模が小さいから、税理士や会計事務所に頼むまでもない」
「会計ソフトを使えば自分でも作れそうだから、わざわざ高い報酬を払ってまで税理士に依頼するのがばかばかしい」・・・実際にこういったお話をお聞きすることも多いです。
しかし、間違いが多い決算申告では銀行にも税務署にも信用されませんし、経営判断や節税対策には全く使えません。
また、個人事業の確定申告と比べると、法人の決算や申告は格段に難易度が高くなりますので、ご自身で正しい決算申告をすることは非常に難しいと思います。私どもの事務所では、お客様の方で会計ソフトへの入力が済んでおり、決算や税務申告だけを頼みたいというご依頼もお引き受けしております。
もちろん、会計ソフトへの入力まで丸投げしたいというお客様や、日々の節税相談をご希望のお客様、更には過去数年分の申告をまとめて依頼したいという法人の方も、ぜひ一度ご相談ください。