実際に支払っていなくても経費にできますか?【会社決算のポイント②】
支払いについても、売上と同様に「発生主義」により計上します。
つまり、今期中にサービスを受けたり物を購入したものの、支払いは来期になるような買掛金や未払金、未払費用があれば、それらも費用に計上することになります。
その反対で、既にお金は支払ったものの、サービスを受けたりするのは来期になるものについては、「前払費用」として当期の費用からは除かれることになります。
今回は、このように決算をまたぐような収入や支払いの処理についてご説明します。
基本的に、会社の決算や税務申告については、ご自身で全てを行うのではなく、少なくとも税務申告については税理士にお任せいただくことが一般的です。
このシリーズでは、会社の決算や記帳についてはご自身で帳簿付けをされおり、決算や税務申告を税理士に依頼している方を対象としていますが、税理士に記帳まで全てお願いしている方であっても、決算にあたって税理士と相談する際に必要な知識となりますので、ぜひご一読ください。
個人事業者で青色申告をされている方も基本的には同様ですので、個人の方もぜひ参考にしてください。
【会社決算のポイント②】未払費用を計上する
決算をまたぐような収入や支払いの処理
普段の取引においては、実際に入金があったり支払いを行った時に会計ソフトに入力する(帳簿に記載する)ことでも、それほど大きな問題はありません。
さすがに売上についてはきちんと把握しているとは思いますが、支払いとなると、例えばインターネット接続料として支払った金額が、いつの分を支払ったのか(何月分の支払いか)を把握していない方も多いかと思います。
前回もご説明したように、収入や費用は、実際にそのサービスなどを提供したり自分が受けた時に計上する必要があるため、必ずしも現金のやり取りをするタイミングとは一致しません。
【収入の計上タイミング】
【費用の計上タイミング】
そのため、特に決算月においては、その収入や支払いについて、本当に当期に計上すべきかどうかを確認しなければなりません。
※なお、会計ソフト上で資金繰りを管理している方や、きちんと月次決算を行っている方は、常日頃からこれらを正しく処理する必要があります。
大きく分けて4パターン
決算をまたぐような収入や支払いについては、主に次の4つのパターンがあります。
※「未払費用」と「未払金」、「前払費用」と「前払金」などは厳密には意味合いが異なりますが、本稿では説明の簡便化のため、同じものとしてご説明しています。
「サービス」と書きましたが、別にサービスだけに限らず、消耗品や備品の購入や、仕入れなども同様です。
(ただし、後払いの仕入れの場合には「買掛金」になります)
このように、決算をまたぐような収入や支払いがあれば、決算時にそれぞれ適切に処理をすることが必要となります。
それぞれ、簡単に具体例を挙げて説明していきます。
未払費用・未払金
未払費用・未払金とは?
当期中にサービスなどを受けており、期末時点において支払義務が確定しているような費用は、実際の支払いが翌期であったとしても、税務上は費用に計上することが認められます。
例えば、電気代や水道代、インターネットや携帯電話の基本料、リース料やサーバー保守費用などで、利用料を後払いで支払うようなものが該当します。
たまに、「請求書が届かないと経費に計上できない」と思い込んでいる方がいらっしゃいますが、そんなことはありません。
当期に計上すべき費用は、漏れなく費用として計上するように再度確認してみてください。
税務上は、次のような要件を満たすものについて、期末時点で支払っていないようなものでも費用として計上できるものとされています。
→会社が法律的にも支払いを行う義務が生じていることと考えて頂ければ結構です。
→実際にサービスを受けていることを指しますので、そのサービスが途中であったり、まだサービス自体を受けていないような場合は除かれます。
→請求書が届いていればその請求金額を、まだ請求書を受け取っていなくても見積書や契約書でほぼ支払金額が確定している場合にはその見積金額等を
未払給与
期末に支払っていない給与(締め後給与)も、未払い計上できる場合があります。
例えば、給与の計算期間が、毎月25日締めの翌月10日払いだった場合、26日~月末までの給与を日割りで計算して、未払い計上する(当期の費用にする)ことも可能です。
この場合、社会保険料の会社負担分についても、未払い計上するケースが多いかと思います。
未払給与を決算で計上する場合は、原則的には給与規定などにおいて、給与の計算期間や支給日が明確にされている必要があります。
さらに、一度未払給与を計上したら、翌期以降も継続して計上する必要があります。
なお、役員報酬については、役員と会社との関係が委任契約ですので、役員報酬の日割り計算という考え方はないものと一般的に解されています。
決算賞与
当期に思いがけず利益が出たからと言って、期末日を過ぎてから決算賞与を計上しようとする会社が意外と多いです。
確かに、決算賞与を計上することで会社の税金は安くなり、従業員に還元することができる場合もありますが、決算賞与を税務上も当期の費用に計上するためには、次の要件を満たさなくてはなりません。
(基本的には、書面で通知をしていることが望ましいです)
・その通知日の属する事業年度の末日の翌日から1ヶ月以内(要は、翌期が始まって1ヶ月以内)に支給額のすべてを使用人に支払っていること
・通知日の属する事業年度で損金経理すること(帳簿に費用として計上すること)
なお、役員や親族(みなし役員)に決算賞与を支給しても、役員に対する定期同額給与に該当しないため、税務上の費用としては認められないこともありますので注意が必要です。
【参考記事】
【法人税の申告調整①】役員報酬を期中に減額した
【法人税の申告調整②】期末に役員賞与や親族への賞与を未払計上した
前払費用・前払金
前払費用・前払金とは?
「前払費用」とは、契約に基づき、継続してサービスの提供を受けるために支払ったもので、期末においてまだサービスの提供を受けていないようなものを言います。
例えば、家賃や保険料、リース料、サーバー利用料など、一般的に毎月定額で請求されるような支払いが該当します。
これらのものは、原則的には上記の通り、その対象となる月(実際にサービスを受ける月や契約期間)に費用として計上することになります。
また、「前払金」とは、主に単発(スポット)で仕事を依頼した場合などに、サービスの提供が完了する前に支払ったものを指します。
例えば会社のホームページ作成を外部業者に委託した際に、着手金として一部支払った金額は、そのホームページが完成するまでの間は、「前払金」として処理することになります。
なお、よく税務調査で指摘を受けることが多いのが、ここで挙げたホームページの着手金や、雑誌などの広告掲載料の計上タイミングです。
ホームページについては、検収をして納品が終わり、実際にウェブ上に公開されたときに完了したものとして費用に計上できます。
雑誌などの広告については、その雑誌が発売されるまでは費用にできません。
短期前払費用
既に当期中に支払っていても、期末においてまだサービスの提供を受けていないようなものは、税務上は費用にすることはできませんので、決算時に「前払金」または「前払費用」として処理することになります。
ただし、「前払費用」のうち、支払った日から1年以内にサービス提供を受けるものであれば、その支払った年度に一括で費用として計上することが認められています。
このような費用を、「短期前払費用」と言います。
これは、そもそも前払費用が「継続してサービスの提供を受ける」ことを前提としているため、たとえ支払時に一括で費用計上したとしても、毎年の費用の金額は一定になります(料金の改定があった場合や契約開始時・解約時などを除く)。
そのため、この特例を適用するためには、毎期継続して同じ処理をするという条件が付いています。
【参考記事】
【会社決算のポイント③】短期前払費用を経費に入れる
未収収益・未収入金
当期中に請け負った仕事が期末までに完了して納品済みだったり、毎月定額を支払ってもらうようなサービスを行っている場合には、その納品済みや提供済みのサービスについて当期中に入金がなかったとしても、当期の収益(売上)に計上する必要があります。
一般的に、スポットで請け負った仕事については「売掛金」または「未収入金」、毎月定額で支払ってもらうような場合で契約書において月々の請求が確定するような場合は「未収収益」という科目を使う事が多いかと思います。
いずれにせよ、既にお仕事が完了している場合には、請求書の発行有無や入金有無にかかわらず、当期の売上に計上しなければなりません。
前受収益・前受金
上記の「未収収益」や「未収入金」とは逆に、お金だけは先に受け取っているものの、請け負った仕事の完成やサービスの提供が来期になってしまうような場合には、その入金について当期に収益や売上に計上する必要はありません。
もし入金時に売上計上している場合は、「前受収益」や「前受金」などの科目に振り返ることで、当期の収益からは除外するような処理を行うことになります。
なお、売上を敢えて来期に繰り延べる場合には、税務調査でも特に注意して調べられるポイントになりますので、きちんと取引内容を確認して本当に来期の売上で良いのかを慎重に判断するよう気を付けましょう。
さいごに
売上でも経費でも、請求書ベースで帳簿への記入を行っているような会社は少なくないかと思います。
日々の記帳ではそれでも構いませんが、決算時には当期の売上・費用を漏れなく計上する必要があります。
少なくとも決算時においては、それぞれの入金や支払いが、どの月に計上すべきものなのかを確認するようにしましょう。
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【会社決算のポイント①】発生主義とは?
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【はじめての決算】
①そもそも「決算」とは?
②決算整理とは?
③税務申告で作成する書類は?
④申告しないとどうなるか?
<その他、会社決算に関する記事>
【会社決算のポイント】
【会社決算のポイント①】発生主義とは?
【会社決算のポイント②】未払費用を計上する
【会社決算のポイント③】短期前払費用を経費に入れる
【会社決算のポイント④】残高を合わせる
【会社決算のポイント⑤】減価償却費を計算する
【会社決算のポイント⑥】少額減価償却資産の処理方法
【会社決算のポイント⑦】固定資産か修繕費か
【会社決算のポイント⑧】棚卸しをして在庫を計上する
【会社決算のポイント⑨】消費税や法人税の期末処理
【会社決算のポイント⑩】その他の決算処理
【法人の決算に向けて】
【法人の決算に向けて①】領収書がない費用を計上しなかった場合
【法人の決算に向けて②】役員に対する貸付金がある場合
【法人の決算に向けて③】自宅を法人の事務所として使用している場合
【法人の決算に向けて④】個人事業で使っていた資産を引き継ぐ
【法人の決算に向けて⑤】法人設立前の費用を忘れずに計上する
【法人の決算に向けて⑥】開業費を経費に算入する
【法人の決算に向けて⑦】法人設立前の売上については、個人で確定申告が必要
【法人税の申告調整】
【法人税の申告調整①】役員報酬を期中に減額した
【法人税の申告調整②】期末に役員賞与や親族への賞与を未払計上した
【法人税の申告調整③】交際費の計算(区分)
【法人税の申告調整④】貸倒損失
【法人税の申告調整⑤】税金の調整(費用になるもの、ならないもの)
- 決算や申告がはじめての法人のお客様へ
-
このシリーズでは、簿記や経理をある程度理解している方を前提として、決算整理の際に注意すべき点をご説明していきます。
基本的には、帳簿だけをご自身で作成して、決算書や税務申告書の作成を税理士(会計事務所)に依頼しているような方を対象としてご説明します。
「どうせ赤字だから、決算や申告が少しくらい間違っていても大丈夫だろう」
「うちは規模が小さいから、税理士や会計事務所に頼むまでもない」
「会計ソフトを使えば自分でも作れそうだから、わざわざ高い報酬を払ってまで税理士に依頼するのがばかばかしい」・・・実際にこういったお話をお聞きすることも多いです。
しかし、間違いが多い決算申告では銀行にも税務署にも信用されませんし、経営判断や節税対策には全く使えません。
また、個人事業の確定申告と比べると、法人の決算や申告は格段に難易度が高くなりますので、ご自身で正しい決算申告をすることは非常に難しいと思います。私どもの事務所では、お客様の方で会計ソフトへの入力が済んでおり、決算や税務申告だけを頼みたいというご依頼もお引き受けしております。
もちろん、会計ソフトへの入力まで丸投げしたいというお客様や、日々の節税相談をご希望のお客様、更には過去数年分の申告をまとめて依頼したいという法人の方も、ぜひ一度ご相談ください。