30万円未満の少額な備品を一括で経費にする方法【会社決算のポイント⑥】
備品や設備などのモノを購入したら、基本的にはまず資産として取り扱われます。
ただし、全ての備品について資産計上して減価償却費の計算をするのは大変なので、少額なものや短期間しか使えないようなものは、その取得した年度の費用とすることができます。
今回は、減価償却のルールの中でも少し特殊な制度についてご紹介します。
基本的に、会社の決算や税務申告については、ご自身で全てを行うのではなく、少なくとも税務申告については税理士にお任せいただくことが一般的です。
このシリーズでは、会社の決算や記帳についてはご自身で帳簿付けをされおり、決算や税務申告を税理士に依頼している方を対象としていますが、税理士に記帳まで全てお願いしている方であっても、決算にあたって税理士と相談する際に必要な知識となりますので、ぜひご一読ください。
個人事業者で青色申告をされている方も基本的には同様ですので、個人の方もぜひ参考にしてください。
【会社決算のポイント⑥】少額減価償却資産の処理方法
備品や設備などのモノを購入したら、基本的にはまず資産として取り扱われます。
ただし、全ての備品について資産計上して減価償却費の計算をするのは大変なので、少額なものや短期間しか使えないようなものは、その取得した年度の費用とすることができます。
このように、減価償却のルールとは異なる取扱いがあるものとしては、次のようなものがあります。
・少額の減価償却資産(~10万円)
・少額減価償却資産の特例(10万円~30万円)
・一括償却資産(10万円~20万円。取得時一括償却ではなく、3年で均等償却)
少額の減価償却資産(~10万円)
まず、少額なもの(10万円未満のもの)や短期間しか使えないようなもの(使用可能期間が1年未満のもの)は、購入して実際に使用開始した年度において費用として計上することができます。
・取得価額が10万円未満のもの
・使用可能期間が1年未満のもの
この場合は、消耗品費や雑費などの費用科目(損益計算書の勘定科目)に計上する必要があります。
また、未使用のままで保管しているだけでは、税務上の費用としては認められませんので注意してください。
少額資産の特例(10万円~30万円)
資本金の額が1億円以下の中小企業者である青色申告法人に限っては、取得価額が30万円未満の減価償却資産についても、その取得した年度の費用とすることができます。
ただし、その減価償却資産の合計額が300万円に達するまでの金額が限度とされており、いずれも実際に使用開始した年度に費用として計上することが要件となります。
「1年で300万円も購入することなんてない」と思われがちですが、例えば会社設立初年度などで、事業年度が1年に満たない場合には、「300万円÷12ヶ月×その事業年度の月数」が限度額となりますので、ご注意下さい。
一括償却資産(10万円~20万円)
上記2つとは若干性格が異なりますが、減価償却資産の取扱いについては、上記のほかにも、「一括償却資産」という制度が設けられています。
これは、取得価額が20万円未満の減価償却資産について、通常の減価償却の方法によらず、3年で均等償却するというものです。
上記の計算式を見て頂ければ分かる通り、事業年度の途中で取得したものがあっても、月割計算の必要はありません。
そのため、事業年度が1年の会社であれば、3年間で均等に償却費を計上することができます。
中小企業の場合、上記の少額減価償却資産の特例(30万円未満の特定)を使うことが多いですが、上述の通り300万円という年間限度額があるため、この限度額を超えるような場合で20万円まで資産については、こちらの一括償却資産として処理されるケースがあります。
この制度を利用する場合には、その取得価額について損益計算書の費用科目に償却費を計上する必要があります。
もし取得価額の全額を費用に計上した場合には、法人税の計算をする上で、申告調整(税務調整)を行い、税務上の費用として認められる金額だけを法人税の計算に含めることになります。
さらに、法人税の申告書を提出する際に、別表16(8)という明細書を記載して添付する必要があります。
まとめ
上記3つの取扱いをまとめると、下表の通りとなります。
取得価額の単位
上記それぞれの制度において、取得価額が10万円・20万円・30万円のそれぞれの範囲内かどうかは、通常1単位として取引される単位ごとに判定を行います。
機械装置であれば1台または1機・一式ごとに、工具や器具備品は1個・1組・一式といった単位で判定することになります。
この「1台」「1式」「1組」などの単位は、それぞれの資産を「使用できる最低の単位」として考えます。
例えば、最近では一体型のパソコンも多いですが、モニタ、パソコン本体、キーボード、マウス、OSなどをそれぞれ部品単位で購入して、これらを組み合わせて業務に使用する場合には、その合計額をもって「パソコン一式」として判定を行います。
また、よく例示に挙げられるものとして、応接セットがあります。
ソファ2個とテーブルをそれぞれ購入し、個々の金額は10万円未満だったとしても、実際に使用する際にはこれらを一箇所に配置して応接セットとして使用するため、その合計額をもって10万円・20万円・30万円等の判定を行うものとされています。
なお、消費税の納税義務がない会社や、税込経理を行っている場合は、消費税込みの金額で判定を行うことに注意してください。
修理や追加工事に注意
今までご説明してきたのは、全て新規に取得した資産についての取扱いです。
既に取得している資産について、後から修理や改良をしたり、追加工事をしたりした場合には、別途検討しなくてはいけない事項があります。
具体的には、その修理や追加工事などについて、「修繕費」として費用計上するのか、「資本的支出」として固定資産に計上するのかという判断を行う必要があります。
こちらについては、次回ご説明したいと思います。
【参考記事】
【会社決算のポイント⑦】固定資産か修繕費か
さいごに
中小企業の場合は、おそらく30万円未満の少額減価償却資産の特例を適用するケースがほとんどかと思いますが、念のため上記それぞれの制度についてご理解いただいた上で、特に年間300万円の限度額には注意してください。
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【会社決算のポイント⑤】減価償却費を計算する
【はじめての決算】
①そもそも「決算」とは?
②決算整理とは?
③税務申告で作成する書類は?
④申告しないとどうなるか?
<その他、会社決算に関する記事>
【会社決算のポイント】
【会社決算のポイント①】発生主義とは?
【会社決算のポイント②】未払費用を計上する
【会社決算のポイント③】短期前払費用を経費に入れる
【会社決算のポイント④】残高を合わせる
【会社決算のポイント⑤】減価償却費を計算する
【会社決算のポイント⑥】少額減価償却資産の処理方法
【会社決算のポイント⑦】固定資産か修繕費か
【会社決算のポイント⑧】棚卸しをして在庫を計上する
【会社決算のポイント⑨】消費税や法人税の期末処理
【会社決算のポイント⑩】その他の決算処理
【法人の決算に向けて】
【法人の決算に向けて①】領収書がない費用を計上しなかった場合
【法人の決算に向けて②】役員に対する貸付金がある場合
【法人の決算に向けて③】自宅を法人の事務所として使用している場合
【法人の決算に向けて④】個人事業で使っていた資産を引き継ぐ
【法人の決算に向けて⑤】法人設立前の費用を忘れずに計上する
【法人の決算に向けて⑥】開業費を経費に算入する
【法人の決算に向けて⑦】法人設立前の売上については、個人で確定申告が必要
【法人税の申告調整】
【法人税の申告調整①】役員報酬を期中に減額した
【法人税の申告調整②】期末に役員賞与や親族への賞与を未払計上した
【法人税の申告調整③】交際費の計算(区分)
【法人税の申告調整④】貸倒損失
【法人税の申告調整⑤】税金の調整(費用になるもの、ならないもの)
- 決算や申告がはじめての法人のお客様へ
-
このシリーズでは、簿記や経理をある程度理解している方を前提として、決算整理の際に注意すべき点をご説明していきます。
基本的には、帳簿だけをご自身で作成して、決算書や税務申告書の作成を税理士(会計事務所)に依頼しているような方を対象としてご説明します。
「どうせ赤字だから、決算や申告が少しくらい間違っていても大丈夫だろう」
「うちは規模が小さいから、税理士や会計事務所に頼むまでもない」
「会計ソフトを使えば自分でも作れそうだから、わざわざ高い報酬を払ってまで税理士に依頼するのがばかばかしい」・・・実際にこういったお話をお聞きすることも多いです。
しかし、間違いが多い決算申告では銀行にも税務署にも信用されませんし、経営判断や節税対策には全く使えません。
また、個人事業の確定申告と比べると、法人の決算や申告は格段に難易度が高くなりますので、ご自身で正しい決算申告をすることは非常に難しいと思います。私どもの事務所では、お客様の方で会計ソフトへの入力が済んでおり、決算や税務申告だけを頼みたいというご依頼もお引き受けしております。
もちろん、会計ソフトへの入力まで丸投げしたいというお客様や、日々の節税相談をご希望のお客様、更には過去数年分の申告をまとめて依頼したいという法人の方も、ぜひ一度ご相談ください。