来年の確定申告に向けて④(法人成りを検討する)
最初は個人事業としてスタートしたものの、ある程度ビジネスの規模が大きくなると、法人化した方が良いと一般的に言われています。
これを、「個人事業の法人成り」と言います。
法人化にはメリットも多いですが、人によってはデメリットに感じることもあります。 法人成りの検討をするのも、年末や年が明けてからでは遅すぎます。
遅くとも昨年の決算が終わってすぐのタイミングで、次の方針を決めた方が良いと思います。
今回は、節税対策としての法人成りについて考えたいと思います。
来年の確定申告に向けて④(法人成りを検討する)
法人化すべきか
ビジネスの2つの形態
ビジネスは個人でも法人でもできますが、それぞれのざっくりとした違いは次の通りです。
それぞれの詳細なメリット・デメリットは後ほどご紹介するとして、まずはイメージを掴んで頂ければと思います。
「法人」は、株式会社などを作って事業をすること。
「個人事業」は、会社を作らないで個人として事業をすることです。
法人化するタイミングは?
何となく「法人化」した方が良さそうな気がするものの、法人にすることのメリットやデメリットが分からないという方や、自分の事業にとってどちらが合っているのか、いつ法人成りするのが良いのか、判断が難しいところです。
一般的に法人化するタイミングとしては、次の場合が考えられます。
・事業が安定して来て、所得が一定額を超えてきたとき
・売上が1000万円を超えて、消費税の申告が必要となるとき
法人成りで税金は安くなるか?
税金だけの観点からすれば、法人にした方がトータルで支払う税金は安くなることが多いです。
法人の場合は、どんなに所得が大きくても、現段階で所得に対して20%~30%程度の税負担です。
その一方で個人の場合、所得が大きいと最高で56%もの税率が掛かってきます。
税率以外にも、法人であれば多くの節税策を取ることができます。
ある程度規模が大きくなれば、法人成りした方がメリットはあるかもしれません。
税率以外の点でも、法人化した方がビジネスとしての信用力が上がりますし、親族への給料など節税策が個人事業よりもやりやすかったり、といった利点もあります。
法人化しない方が良い場合は?
ただその一方で、法人化のデメリットもあります。
例えば、
・赤字でも払わなければならない税金がある
・設立時や運営にあたって費用が掛かる
・社会保険に加入する義務がある(メリットの場合もあります)
以下、メリットとデメリットについてもう少し詳しくご説明していきますが、その前に個人と法人の税率の違いについてご紹介しておきます。
法人と個人では税率にどれくらいの差があるのか
税率は法人の方が安い
個人事業の場合に掛かる税率は、所得税と住民税合わせて約15%〜56%です。
これに加えて、事業税などが掛かることになります。
一方の法人の場合、どんなに所得が大きくても、現段階では20%〜30%程度の税負担となっています。
つまり、所得が大きければ大きいほど、法人にした方が税率差のメリットがあることになります。
一例として、所得が600万円の場合に掛かる税金を、個人と法人で比較してみると、次表の通りとなります。
かなりざっくりとした計算にしていますが、明らかに法人の方が税金が安いことが分かります。
ただ、この計算だけを見せて「法人の方がおトクです」、というのはミスリードになります。 次をご覧ください。
社会保険料の負担が大きい
法人化すると、社員ゼロで社長だけの会社であっても、原則的には社会保険(健康保険及び厚生年金)に加入しなければなりません。
個人と法人の場合の、加入する健康保険制度の違いは次の通りです。
社会保険への加入をメリットと見るか、デメリットと見るかは考え方の違いだと思いますが、ここでは負担しなければならない社会保険料だけを比較してみます。
先ほどの所得600万円のケースで見ると、次の通りです。
上表のとおり、社会保険料まで含めたところで最終的な個人の手取り額を計算すると、個人事業の方が法人よりも若干手取り額が多くなる計算になります。
ただしこの計算は、他の要素を考慮しないで税金と社会保険料だけを計算した比較です。
このような結果が出ても法人化した方がメリットがあるのには、別の要素があるからです。
それでも法人化した方がメリットがある理由
まずひとつ目が、家族への給料を払うことで、トータルでは節税になるケースが多くなります。
先ほど触れたように、個人事業の場合は所得が大きくなればなるほど、税率が高くなる仕組みになっています。
そのため、家族に会社の従業員や役員になってもらい、彼らにお給料を支払うことで、家計全体としての税金負担を下げることが可能になります。
個人事業の場合も「青色事業専従者給与」という制度があるので、家族に給料を支払うことができるのですが、これを使うと「扶養控除」や「配偶者控除」は使えません。
法人にして家族に給料を支払うときに、その給料の金額を103万円以下に抑えれば、扶養控除や配偶者控除を適用できるため、ダブルでお得になる可能性があります。
他にも色々と考えるべき要素はありますが、その他のメリットとして主要なものは、以下の通りとなります。
法人成りのメリット
退職金を経費にできる
上記でご説明したとおり、法人では、役員や従業員に対する退職金を経費にすることができます。
小さな会社なので、退職金なんてとても払えない、と思われるかもしれませんが、これもひとつの節税対策です。
というのも、毎月支払う給料を抑えることで、年間の所得税や住民税、社会保険料などを安くすることができます。
さらに、退職金として支払う場合には、次のような方法で税金を計算しますので、税金が掛からないケースが多くなります。 もっと言えば、家族を役員や従業員にすれば、利益や退職金を家族に分散することが可能になります。
ただし、いずれも事前にシミュレーションを行い、節税メリットが取れるような事業計画を立てておくことが大切です。
社宅家賃を経費にできる
賃貸で部屋を借りて自宅兼事務所として使っている場合、個人事業ですと、例えば家賃を面積按分して、事業に使っている部分だけしか経費に入れることができません。
その一方で法人の場合は、法人名義で部屋を借りて、事業用の部分は会社の経費として、自宅として使う部分は少なくとも50%程度の本人負担をさせれば、残りの部分を社宅家賃として経費にすることも可能です。
会社として生命保険に加入する
個人の場合は、生命保険に加入しても一定額までしか控除できません。
その一方で法人の場合、契約者と受取人の両方を会社にすれば、保険料を会社の経費にできる場合があります(保険の種類によって異なります)。
また、会社が受取る保険金については、会社から遺族への死亡退職金として支給すれば、きちんとご家族にお金を残すことが可能です。
消費税
個人事業でも法人でも、事業を開始してから最低2年間は、消費税を納める義務はありません。
(ただし、資本金が1,000万円以上の場合など、一定の場合を除きます)
消費税を納める義務があるのは、個人事業の場合は2年前、法人の場合は2期前の売上高が1,000万円超の場合です。
そのため、最初の数年間は個人事業でビジネスを行い、売上が1,000万円を超えてきた段階で法人成りすれば、さらに2年間消費税の申告・納付を免除してもらうことができます。
赤字を繰り越せる期間が長い
個人事業の場合、青色申告をしていれば、赤字が出ても3年間繰り越して翌年以降の黒字と相殺することができます。
一方で法人の場合は、この繰越の期間が9年間(平成30年4月1日以後開始事業年度からは10年間)と、個人事業の場合よりも長くなります。
その他のメリット
節税対策以外のメリットとしては、次のようなものが考えられます。
・個人事業よりも信用が高い
・資金調達がしやすい
・従業員の募集がしやすい など
法人成りのデメリット
法人住民税の均等割
法人の場合は、赤字であっても最低70,000円程度の税金(法人住民税の均等割)を払わなければなりません。
社会保険料負担
これが最も影響が大きいかもしれませんが、法人化すると、たとえ社長一人であっても社会保険(厚生年金)に加入しなければなりません。
上でも説明しましたが、個人と法人の場合の、加入する健康保険制度の違いは次の通りです(再掲)。
これらの違いを簡単にご説明すると、次の通りです。
国民健康保険の場合は、自治体によって計算方法が異なりますが、一般的に前年の所得金額に応じて保険料を計算します。
また国民年金は、一律一人あたりの金額が決まっています。
平成28年度は月額16,260円です。
これは、扶養に入っているかどうかを問わず、それぞれ支払わなければなりません。
一方で協会けんぽですと、毎月の給与額に応じて保険料が決まってきます。
こちらも地域によって異なりますが、東京都の40歳未満の方で、給与額の9.96%を会社と本人で折半します(料率は平成28年3月〜)。
厚生年金については、給与額の18.182%を折半します(料率は平成28年9月分〜平成29年8月分)。
結局、会社と本人をあわせて、約28%もの社会保険料を負担することになります。
ただし、社会保険に加入することはデメリットとも言い切れません。
現段階では社会保険料を負担しなければなりませんが、厚生年金部分は、基礎年金である国民年金に上乗せされますので、将来受取る年金が増えることになります。
また、疾病手当金や出産手当金などの保障制度もあるため、むしろ社会保険に加入していた方がメリットになるケースも多いと思います。
役員報酬
会社から社長などに役員報酬を払う場合には、原則的に会計期間の途中で金額を変更することができません。
基本的に役員報酬は、その期を通じて毎月定額である必要があります。
これを、法人税の世界では「定期同額給与」と言います。
そのため、期の途中で利益が予想以上に出ることが分かったため、役員報酬を増やそうと思って支払っても、その増額部分は会社の経費として認められないことになっています。
もし変更したい場合には、会計期間が始まってから3ヶ月以内に変更金額を決定して、実際に変更した後の金額で毎月振込みをする必要があります。
また、この場合、取締役会や株主総会などの議事録を作成しておく必要があります。
会社の設立維持が大変
法人になると、個人事業に比べて色々な事務手続きが大変になります。
例えば、
・書類などの事務作業が多い
法人設立時、役員変更時、社会保険への加入・変更などの手続き、役員報酬規定や旅費規定等の各種社内規定、会社の重要事項を決定する際の議事録などなど、いろいろな場面で書類を作成しなければなりません。
ただし、このような書類を準備しておくことで、税務調査が入ったときに、各種節税処理をキチンと説明するための根拠となります。
・日々の経理や決算が大変
個人事業の場合は白色申告や、現金主義による記帳を選択することもできますが、法人の場合は基本的に複式簿記による記帳が原則となります。
また決算や税務申告の際に作成する書類も、個人事業に比べて格段に多くなりますし、ある程度知識がないとその作成も難しいと思います。
さらに、個人事業であれば確定申告の提出先は一箇所ですが、法人の場合は、税務署・都道府県税事務所・市町村役場の3ヶ所に提出しなくてはなりません。
個人事業の場合は、自分ひとりでも何とか確定申告はできるかもしれませんが、法人になると基本的には税理士に依頼するか、知識のある方を経理として雇うことになります。
・登記などの手続き
個人事業ですと開業時に特別な手続きは不要ですが、法人の場合は、会社を作るにあたって法務局への登記が必要になります。
また、役員変更や本店異動などの際にも、変更登記が必要になり、それぞれ手数料(印紙)が必要となります。
お金の出し入れが自由にできない
個人事業のときは、会社に比べて事業とプライベートのお金の区分が緩いため、手元に残ったお金を自由に使うことができます。
(もちろん、事業用のお金とプライベートのお金をきちんと分けたほうが良いです)
法人になると、いくら自分の会社とは言え、自由に会社のお金を引き出すことは(基本的には)できません。
もしプライベートのために会社のお金を使ったら、まずは役員賞与として個人の給与所得になってしまいます。
さらにこの役員賞与は、上記で説明したように定期同額給与ではないので、会社の経費にはなりません。
役員賞与にしないためには、会社から個人に対する「貸付金」として取扱うことになりますが、この場合は”利息”を会社の収益として立てなければならないことになっています。
このように、会社のお金をプライベートと混同して使うと面倒なことになってしまうので、できるだけ避けた方が無難です。
法人名義の方が料金や手数料が高くなるものがある
上記以外にも、例えば法人が利用するサービスは、個人に比べて手数料が高くなるものがあります。
例えば、銀行のインターネットバンキングは、個人が利用する際には手数料が掛かりませんが、法人だと月額利用料が数千円〜となっていて、割と高額です。
(インターネット専業銀行の場合は、手数料が掛からない所もあります)
また、他行への振込手数料も、法人の方が高くなっています。
他にも、自動車保険やNTTの固定電話など、法人で加入すると割高になる傾向があります。
さらに言えば、私たち税理士の報酬も、個人事業に比べると法人に対する報酬の方が高いです。
ただこれは、そもそも法人の会計・税務業務の方が個人事業に比べて大変なので、特に足元を見ているという訳ではありません。
さいごに
今回は、法人成りを検討するにあたって、法人化することのメリット・デメリットをまとめてみました。
メリットは主に節税対策となりますが、それ以外にも考慮しなければならないポイントがあるため、一長一短とも言えます。
実際に検討する際には、自分ひとりで決めるのではなく、専門家に相談されることをお勧めします。
<次回以降の更新予定>
「来年の確定申告に向けて」
来年の確定申告に向けて①(概要編〜主な節税対策〜)
来年の確定申告に向けて②(青色申告の基礎)
来年の確定申告に向けて③(退職金や保険で節税する)
来年の確定申告に向けて④(法人成りを検討する) ←今回の記事です
来年の確定申告に向けて⑤(その他の節税対策)
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