減価償却費の具体的な計算方法【会社決算のポイント⑤】
会社として支出する費用のうち、文房具や交通費、交際費などについては、基本的にはその支払った年度の費用になります。
しかし、一式10万円以上の備品を購入したり、オフィスを借りて内装工事をした場合など、その支出額を数年間にわたって費用化しなければならないものがあります。
今回は、おそらく事業をされている方であればご存知の「減価償却」という考え方について、できるだけ簡単にご説明したいと思います。
基本的に、会社の決算や税務申告については、ご自身で全てを行うのではなく、少なくとも税務申告については税理士にお任せいただくことが一般的です。
このシリーズでは、会社の決算や記帳についてはご自身で帳簿付けをされおり、決算や税務申告を税理士に依頼している方を対象としていますが、税理士に記帳まで全てお願いしている方であっても、決算にあたって税理士と相談する際に必要な知識となりますので、ぜひご一読ください。
個人事業者で青色申告をされている方も基本的には同様ですので、個人の方もぜひ参考にしてください。
【会社決算のポイント⑤】減価償却費を計算する
減価償却とは?
資産は使用期間にわたって費用化する
会社の事業のために購入した備品や機械設備などは、その購入金額の全額を会社の費用とすることができますが、一定の金額を超えるモノについては、その購入した年に全額を費用に計上できるわけではありません。
具体的には、購入金額を一定のルールに応じて、数年間(場合によっては数十年間)にわたって少しずつ費用化していきます。
これを「減価償却」と言います。
「減価償却」とは、読んで字のごとく、「使用によって価値が減少した分を、少しずつ償却(費用化)していく」ことを意味しています。
具体例で説明します
例えば、デザインを行う会社で、40万円という高額なパソコンを購入したとします。
クレジットやローンは使わずに、現金一括で購入しました。
このパソコンは、本来であれば2年ごとに買い換えたいところですが、高額ですので4~5年くらいは使う予定です。
(1)減価償却しない場合
これをもし購入した年度において、一括で費用に計上すると次のようになります。
このパソコンを使って毎年30万円の売上がある場合、初年度だけは赤字になりますが、翌年以降は経費がないので、売上がまるまる利益となります。
トータルで見れば結果は同じですが、毎年の損益計算がアンバランスになってしまいます。
(2)減価償却する場合
一方で、このパソコンは少なくとも4年間は使用する予定です。
当社は、パソコンを使ってデザインをすることで売上を得ているわけですから、40万円のパソコンは毎年の売上に少しずつ貢献していると考えられます。
購入した年度の売上にだけ貢献しているわけではありません。
そこで、この40万円の費用も、その効果が及ぶ期間に按分して計上してみます。
こうすると、売上と経費のバランスが一定となり、毎年の利益も適切に計算することができます。
このように、毎年の売上に対応して適切に費用を按分させる方法のひとつとして、「減価償却」というルールが設けられています。
減価償却制度の概要
減価償却の方法
減価償却の方法には、一定のルールが決められています。
一般的には、「定額法」か「定率法」という2つのどちらかの方法で計算することになります。
毎年の減価償却費が同額になるよう費用化する方法です。
例えば4年間で費用化する場合は、購入金額の1/4ずつを毎年、減価償却費として計上します。
<定額法のイメージ>
購入してから時間が経過するにつれて、費用に計上する金額が少なくなっていく方法です。
たとえば製造業の機械設備などで、新品のうちはフル稼働でたくさんの製品を製造できるものの、使用するにつれて劣化や故障によって製造量が減っていくようなものに適していると言われています。
<定率法のイメージ>
これらの方法については、資産の種類によって選択できる方法が決められています。
現時点では、基本的に「定額法」によって減価償却費を計算することとされており、「定率法」や他の方法によって償却計算を行いたい場合は、あらかじめ税務署長に届出が必要となりますので、ご注意下さい。
耐用年数
減価償却費を計算するにあたっては、償却方法と合わせて、その資産を何年間で費用化するのかという点についてもルールが設けられています。
会社が自由に費用化する期間を決められる訳ではありません。
この費用化する期間を、「耐用年数」と言います。
耐用年数は、一般的にその資産がどれくらいの期間使用できるのかという年数であり、資産の種類や用途に応じて異なる年数が定められています。
これを「法定耐用年数」と言います。
法定耐用年数は、「減価償却資産の耐用年数等に関する省令」という法令で定められていますが、具体的にどの年数を使うべきか判断する際には、顧問税理士などにご相談ください。
中古資産
上記で説明した「耐用年数」は、基本的には新品で購入した場合の年数が定められています。
中古の場合は何年間か既に使用されているものを購入していますので、新品と中古で同じ耐用年数を用いて減価償却費を計算することは合理的ではありません。
そこで、中古資産を購入した場合は、新品よりも短い期間で費用化することが認められています。
取得時からその後の使用可能期間を見積もって、それを耐用年数とする
①法定耐用年数の全部を経過している場合
法定耐用年数×20%
②法定耐用年数の一部を経過している場合
(法定耐用年数ー経過年数)+(経過年数×20%)
※1年未満の端数は切り捨て。計算結果が2年未満のときは2年とする。
「使用可能期間」を見積もることは困難なため、簡便法で計算することが一般的です。
この場合、中古で購入した資産がどれくらいの経過年数か(新品として購入されてから何年使用されたか)確認できるものを購入できると良いかと思います。
付随費用
減価償却資産の取得価額は、その資産を購入した場合には、次の通り、付随費用や据付費など取得に要した金額を全て含めることとされています。
付随費用・・・・・引取運賃、荷役費、運送保険料、購入手数料、関税等
事業供用費用・・・据付費や試運転に係る費用等
ただし、以下のような費用については、取得価額に含めなくても良いものとされています。
(取得価額に含めることが原則的な取扱いであるため、含めても結構です)
・割賦購入資産の利息等(一定の場合)
・不動産取得税、自動車取得税、登録免許税その他登記または登録のために要する費用 など
購入した年度に一括で費用計上できるもの
備品や設備などのモノを購入したら、基本的にはまず資産として取り扱われます。
ただし、全ての備品について資産計上して減価償却費の計算をするのは大変なので、少額なもの(10万円未満のもの)や短期間しか使えないようなもの(使用可能期間が1年未満のもの)は、その取得した年度の費用とすることができます。
また、青色申告を行う中小企業に対しては、30万円未満の減価償却資産についても、その取得した年度の費用とする特例が設けられています。
これらの詳細は、次回ご説明します。
【参考記事】
【会社決算のポイント⑥】少額減価償却資産の処理方法
さいごに
減価償却は、ほとんどの会社に関係がある制度ですが、実は細かい部分ではかなり奥の深い論点になります。
意外と税務調査でもチェックされる論点になりますので、少し複雑な案件については、早いタイミングで顧問税理士にご相談頂くことをお勧めします。
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【はじめての決算】
①そもそも「決算」とは?
②決算整理とは?
③税務申告で作成する書類は?
④申告しないとどうなるか?
<その他、会社決算に関する記事>
【会社決算のポイント】
【会社決算のポイント①】発生主義とは?
【会社決算のポイント②】未払費用を計上する
【会社決算のポイント③】短期前払費用を経費に入れる
【会社決算のポイント④】残高を合わせる
【会社決算のポイント⑤】減価償却費を計算する
【会社決算のポイント⑥】少額減価償却資産の処理方法
【会社決算のポイント⑦】固定資産か修繕費か
【会社決算のポイント⑧】棚卸しをして在庫を計上する
【会社決算のポイント⑨】消費税や法人税の期末処理
【会社決算のポイント⑩】その他の決算処理
【法人の決算に向けて】
【法人の決算に向けて①】領収書がない費用を計上しなかった場合
【法人の決算に向けて②】役員に対する貸付金がある場合
【法人の決算に向けて③】自宅を法人の事務所として使用している場合
【法人の決算に向けて④】個人事業で使っていた資産を引き継ぐ
【法人の決算に向けて⑤】法人設立前の費用を忘れずに計上する
【法人の決算に向けて⑥】開業費を経費に算入する
【法人の決算に向けて⑦】法人設立前の売上については、個人で確定申告が必要
【法人税の申告調整】
【法人税の申告調整①】役員報酬を期中に減額した
【法人税の申告調整②】期末に役員賞与や親族への賞与を未払計上した
【法人税の申告調整③】交際費の計算(区分)
【法人税の申告調整④】貸倒損失
【法人税の申告調整⑤】税金の調整(費用になるもの、ならないもの)
- 決算や申告がはじめての法人のお客様へ
-
このシリーズでは、簿記や経理をある程度理解している方を前提として、決算整理の際に注意すべき点をご説明していきます。
基本的には、帳簿だけをご自身で作成して、決算書や税務申告書の作成を税理士(会計事務所)に依頼しているような方を対象としてご説明します。
「どうせ赤字だから、決算や申告が少しくらい間違っていても大丈夫だろう」
「うちは規模が小さいから、税理士や会計事務所に頼むまでもない」
「会計ソフトを使えば自分でも作れそうだから、わざわざ高い報酬を払ってまで税理士に依頼するのがばかばかしい」・・・実際にこういったお話をお聞きすることも多いです。
しかし、間違いが多い決算申告では銀行にも税務署にも信用されませんし、経営判断や節税対策には全く使えません。
また、個人事業の確定申告と比べると、法人の決算や申告は格段に難易度が高くなりますので、ご自身で正しい決算申告をすることは非常に難しいと思います。私どもの事務所では、お客様の方で会計ソフトへの入力が済んでおり、決算や税務申告だけを頼みたいというご依頼もお引き受けしております。
もちろん、会計ソフトへの入力まで丸投げしたいというお客様や、日々の節税相談をご希望のお客様、更には過去数年分の申告をまとめて依頼したいという法人の方も、ぜひ一度ご相談ください。