来年の確定申告に向けて⑤(その他の節税対策)
前回まで4回にわたって、来年の確定申告に向けて、個人事業者やフリーランスの方が検討すべき項目についてご紹介してきました。
最後となる今回は、節税対策として税金に直接効果のある方法をいくつかご紹介したいと思います。
個々の節税額が小さいものもありますが、お金は塵(チリ)ではありません。
ぜひ、積み上げてしっかりと節税して頂ければと思います。
来年の確定申告に向けて⑤(その他の節税対策)
経費を増やす
経費を増やせば、税金は安くなります。
個人事業主の税金は、基本的に収入から経費を引いた残り(儲け)に対して課税される仕組みです。
税率は、所得税と住民税合わせて、おおよそ15%~56%です。
経費が多ければ多いほど、儲けも減りますので、必然的に税金は安くなります。
10,000円余計に経費を使えば、多ければ5,600円ほどの税金が安くなります。
しかし、キャッシュアウトの観点から考えると、その経費を使わなければ、手元に4,400円残っていたはずです。
皆さんがお仕事をされる究極の目的は、自由に使えるお金を残すことだと思います。
税金を安くすることが目的ではありません。
入れていなかった経費を増やす
ここでお話する「経費を増やす」というのは、ただ支出を増やすというのとは意味合いが違います。
今まで経費にできないと思い込んで入れてこなかった支出を、できるだけ経費として計上することです。
簡単に言ってしまえば、事業とプライベートの境目が微妙な支出について、一定部分を事業の経費として計上できないか検討することになります。
このような支出を、「家事関連費」と言います。
多くの方が悩むのが、自宅兼事務所の場合の家賃や水道光熱費、通信費だったり、火災保険料や固定資産税、自動車の減価償却費、ガソリン代、各種交際費や旅費交通費などです。
これらのうち、少しでも事業に関連のある支出があれば、事業の経費に入れられないか検討する価値はあると思います。
家事関連費を按分して必要経費に参入する場合には、「事業に関連する部分」と「プライベートな部分」を合理的に按分して、それを明確に説明できるようにしておかなければなりません。
こちらの記事も参考にしてみてください。
→【確定申告スタートダッシュ④】家事按分の基礎
領収書のない経費を入れる
上記にも関連しますが、領収書がないからと経費に入れない方もいらっしゃるようです。
領収書がなければ、実際に支払ったかどうか証明できないので、基本的には領収書などの支払いを証明できる書類は必要です。
しかし、領収書をもらい忘れてしまったり、そもそも領収書をもらえないような経費も少なからず存在します。
例えば、
・公共交通機関を利用した際の交通費
・ご祝儀やお香典
・新年会や忘年会の参加費や、取引先と飲食して割り勘で払った場合 など
これらの支出は領収書がもらえないことが多いですが、実際に事業に関連して支払ったものであれば、必要経費に算入することができます。
これらの経費を漏れなく入れることで、積み重ねてみたら割と大きな節税になっていたりすることもあるので、馬鹿にしないで経費に入れることが大切です。
こちらの記事も参考にしてみてください。
→【確定申告の基礎】領収書のギモン①~確定申告に必要な領収書とは?~
ちなみに、領収書のない経費は忘れてしまいがちなので、できればその日のうちに会計ソフトに入力するか、メモ用紙などに記載して他の領収書と一緒に保管しておくことをお勧めします。
生命保険などの見直しをする
生命保険や地震保険は、1年間に支払う保険料の金額に応じて、税金が掛かる所得金額から一定額を控除することができます。
保険はあくまでも将来の突発的な支出や生活費のために備えるものですので、まず第一に必要とする金額や保障をメインに考えて、毎月負担できる金額を考慮してプランを決めるべきではありますが、税金計算上の所得控除についても検討要素に入れたほうが良いかと思います。
具体的には、支払う保険料と所得控除額の関係は次の通りとなります。
上記の通り、所得控除の限度額は、
①一般の生命保険、
②個人年金、
③介護医療保険
の3種類の合計で120,000円となっています。
それぞれ個別の限度額は40,000円です。
限度額である40,000円の控除を受けられるのは、1年間に80,000円超の保険料を支払った場合ですので、保険料が年額100,000円でも、150,000円でも控除できる金額は一律40,000円となります。
今から保険を見直す場合の最も効率的な入り方は、税金だけを考えれば、①②③のそれぞれで80,000円前後の保険料になるようなプランを選ぶのが良いということになります。
120,000円の控除額の場合、所得税率20%の方(所得金額が330万円~695万円の方)ですと、約36,000円の節税になります(所得税20%+住民税10%)。
ただし、平成23年12月31日以前に締結した保険契約(控除証明書に「旧契約」と書かれています)の場合は、①一般の生命保険と②個人年金のそれぞれ50,000円が限度で、合計100,000円となります。
旧契約の場合、介護医療保険はありません。
従って、見直しをする場合には、新旧契約を考慮して最も控除額が大きくなるような加入の仕方を検討していただくのが良いかと思います。
医療費控除を最大限活用する
健康が第一ですので医療費は少ない方が良いですが、普通は年に数回は病院に行ったり、ドラッグストアで薬を買っていると思います。
ただ、多くの方は医療費控除の下限が10万円ですので、集計してもそこまで達しないケースが多いのではないかと推察します。
おそらく医療費控除を使うような場合は、ケガや病気で入院したときか、出産したときなどが一般的なケースではないかと思います。
今回は、今まで医療費控除を使ってこなかった方に向けて、適用のためのポイントを挙げてみます。
①家族の分をまとめる
一人ひとりの医療費は少なくても、家族の分をまとめると10万円を超えるかもしれません。
医療費控除は、同一生計(同じ財布で生活している家族)の方の分であれば、それらをまとめて申告することができることになっています。
②対象になる医療費を確認する
病院にかかった際の領収書だけでなく、薬局で購入した医薬品や、場合によってはドリンク剤なども医療費控除の対象になります。
また、歯医者の自費診療や、なども、それが治療のために必要なものであれば、医療費控除の対象に含めることができます。
③上限を見直す
一般的に医療費控除の上限は10万円と言われていますが、所得が200万円未満の場合、所得×5%が上限になります。
セルフメディケーション税制の導入
さらに、平成29年1月1日からは、セルフメディケーション税制が開始されました。
これは、薬局などで購入した市販薬に限定した医療費控除で、従来の医療費控除の簡易版と考えて頂ければ結構です。
国の医療費負担を減らすために、軽い病気やケガであれば、病院に行かずに市販薬で治すことを推奨するために導入された制度となります。
この制度のポイントは、上限額が12,000円であるため、従来の医療費控除に比べて適用できる可能性が高いということです。
簡単に概要をご紹介しておきます。
【要件】
・OTC医薬品を年間12,000円超購入していること
・健康診断や予防接種などを受けていること
【対象となる医薬品】
スイッチOTC医薬品(医療用医薬品から転用された医薬品)
平成29年2月14日現在、83成分1,600品目が対象になっているようです。
http://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000124853.html
いつも購入している医薬品が対象になっているかどうか、是非確認してみてください。
【控除額】
OTC医薬品の年間購入額ー12,000円(最大で88,000円)
(例)OTC医薬品の年間購入額が50,000円の場合、50,000円ー12,000円=38,000円を所得から控除できます。
所得税率が10%の方であれば、所得税と住民税合わせて7,600円の税金が安くなることになります。
なお、従来型の医療費控除とセルフメディケーション税制による医療費控除は選択性ですので、どちらか一方しか適用できませんのでご注意下さい。
【注意点】
この制度を適用するためには、OTC医薬品の領収書を保管しておくのに加えて、健康診断や予防接種を受けたことの証明書が必要となります。
なお、この制度も従来型の医療費控除と同様に、同一生計の家族の分もまとめて適用することが可能です。
ちなみに、ドラッグストアなどでセルフメディケーション税制対象の医薬品を購入すると、レシートに次のような記載がされることが多いかと思います。
お店では、このようなマークが目印となっています。
消費税の有利な計算方法で節税する
2年前の売上が1000万円を超えると、個人事業でも消費税の申告と納税が必要になります。
また、前年1月1日~6月30日までの売上が1,000万円を超えるか、同期間に支払った給与の額が1,000万円を超えるような方も、消費税の申告が必要です。
消費税の申告は、売上に係る消費税から、経費に係る消費税を差し引いた残りを、国に納付することになります。
例えば、108円(消費税8円)の商品を仕入れてきて、324円(消費税24円)で売れば、差額の消費税相当である16円を国に納付します。
これは原則的な方法ですが、個人事業などの中小規模事業者に対しては、簡便的な計算方法が認められています。
「簡易課税」と呼ばれる方法で、例えば小売業であれば、80%の「みなし仕入率」というものを使って、実際に支払った金額に関係なく、消費税を計算できるようになります。
そうすると、例えば利益率(粗利ではなく、最終的な利益)が約30%の小売業であれば、納める消費税の金額は次のようになります。
※説明のため、簡便的に計算しています。
上記の通り、計算方法を変えるだけで、納税額に大きな違いが生じてきてしまいます。
この方法を採用する前に、まずは現在及び将来の事業の状況をシミュレーションが必要になります。
その上で、この方法で計算しようとする年の前年12月31日までに届出書を提出しなくてはなりません。
また、一度この方法を採用すると、2年間は継続しなければならないというルールになっています。
定期的に帳簿を付ける
帳簿をつけることが節税対策?と思われるかもしれません。
もちろん、青色申告をするのであれば帳簿付けは必須ですが、効果的に節税対策をするためには、1年が終わってからではなく、定期的に帳簿付けすることがとても重要です。
キチンと帳簿を付けておくことで、「年の前半は例外的に売上が大きくなったけど、後半は減りそうだ」ですとか、「今年は利益が少ないけど、このままいけば来年は増えるだろう」といった見込みが立てられれば、早いタイミングで効果的に節税対策を行うことが可能です。
また、先程の「法人成り」の検討も、常に帳簿を付けて経営状況をチェックすることで、いつ法人化するのが良いのか判断することができます。
またこれは余談ですが、個々数年人気がある「ふるさと納税」は、個々の所得金額に応じて、上限額が変わってきます。
上限額を超えて納税した場合には、その超えた部分については税金のメリットはありません。
サラリーマンなど会社員の方であれば、ボーナスを除けば、ある程度1年間の給与収入は想定することができますので、まだ1年が始まったばかりの頃にふるさと納税をしても良いでしょう。
人気の商品(返礼品)は、早い段階で品切れになるものもあるため、早めに申込んだ方が良い場合もあります。
その一方で個人事業者の方は、売上が予測出来ないことが多く、年末にならないと年間の所得(利益)がどれくらいになるのか分からないかもしれません。
定期的にきちんと帳簿を付けておくことで、年間の利益予測を立てられれば、今年の上限額がどれくらいになるのかを計算することも可能です。
何もしていなければ、夏頃に思い切ってふるさと納税をしてみたものの、年末に蓋を開けてみたら上限額を超えてしまった、ということもあるかもしれません。
さいごに
今回まで5回にわたって、来年の確定申告に向けた節税対策をメインに、ご説明してきました。
基本的に、節税対策は年内に手を打たないと間に合わないものが多く、その中でも年の始めに対策をしておくことで、より効果的な節税が行える場合が多いということがご理解頂けましたでしょうか。
次回は一転して、今年の確定申告でもできる節税のヒントをご紹介したいと思います。
既に年が明けているので今からできることは少ないですが、どうしても今年の税金を減らしたいという方のために、少しでもご参考になればと思っています。
<次回以降の更新予定>
「来年の確定申告に向けて」
来年の確定申告に向けて①(概要編〜主な節税対策〜)
来年の確定申告に向けて②(青色申告の基礎)
来年の確定申告に向けて③(退職金や保険で節税する)
来年の確定申告に向けて④(法人成りを検討する)
来年の確定申告に向けて⑤(その他の節税対策) ←今回の記事です
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