税務調査第8回:知っておきたい「予告なしで税務署が来た場合」の対応方法
※本記事は、税理士がいない方や、現在の税理士との関係に不安を感じている方向けに、税務調査への対応ポイントを分かりやすくお伝えするシリーズの第8回です。
はじめに|予告なく調査官が訪ねてきたら
ある日の朝、お店や事務所の入口に、税務署の職員が突然やってきます。
「○○税務署の△△と申します。これから税務調査を実施させていただきます」
事前の連絡は一切ありませんでした。
このシリーズの第1回では、税務署から「調査をしたい」という連絡が来た場合の初動をお伝えしました。しかし実際には、事前の連絡なしに調査官が訪れるケースがあります。これを「無予告調査」といいます。
件数としては多くありませんが、目の前に調査官が立つと、多くの方が同じ行動を取ってしまいます。その場で中に招き入れ、そのまま調査が始まってしまうのです。
ただし、その場で調査を受ける義務はありません。この第8回では、予告なしで調査官が訪れたときに、玄関で何を伝えればよいかを、法令の根拠とあわせて解説します。
そもそも税務調査には「事前通知」が原則
国税通則法では、税務調査を行う際にあらかじめ納税者へ通知することが原則とされています。通知される内容は、調査開始の日時・場所、調査の目的、対象となる税目と期間などです。
顧問税理士がいて、税務代理権限証書が提出されていれば、この通知は税理士にも届きます。当事務所の関与先の場合、通常はこの流れになります。
つまり多くの場合、税務署からの連絡を受けて日程を調整し、必要な準備をしたうえで調査当日を迎えることになります。
無予告調査は、どんなときに行われるのか
ただし法律には例外が定められており、一定の場合には事前通知をせずに調査を行うことが認められています(国税通則法第74条の10)。
国税庁の通達では、その具体例として次のような場合が挙げられています。
事前通知をすると、証拠が失われるおそれがある場合
通達では、事前に通知することで次のような行為が行われると合理的に推認される場合が例示されています。
・帳簿書類などを破棄、隠匿、改ざん、偽造すること
・調査を困難にする目的で逃亡すること
・過去の不適切な処理を隠すため、通知後に適正な記帳や書類を作り出すこと
・従業員や取引先に対して、口裏合わせや調査への非協力を求めること
連絡が取れない場合
意外に思われるかもしれませんが、通達には「事前通知を行うため相応の努力をして電話等で連絡しようとしたが、応答を拒否された、または応答がなかった場合」も挙げられています。
不正の有無とは関係なく、単に連絡がつかなかっただけでも、無予告調査の対象になりうるということです。税務署からの着信に心当たりがある場合は、放置せずに折り返すことをおすすめします。
「現金商売だから無予告」ではありません
「現金商売の飲食店や小売店は予告なしに来られる」という話を聞いたことがある方もいるかもしれません。しかし通達には、はっきりとこう書かれています。
単に不特定多数の取引先との間において現金決済による取引をしているということのみをもって事前通知を要しない場合に該当するとはいえない
つまり現金商売であるという事実だけでは、無予告調査の理由にはなりません。あくまで、売上の一部を計上していないなど、事前に知らせると証拠が失われると判断される事情があってはじめて該当します。
その場で調査を受ける義務はありません
調査官が予告なく訪れたとしても、その日その時間に調査を始めなければならない、という義務はありません。
国税庁の通達には、調査の日時変更を求める理由が合理的かどうかについて、次のような記載があります。
納税義務者等(税務代理人を含む)の病気・怪我等による一時的な入院や親族の葬儀等の一身上のやむを得ない事情、納税義務者等の業務上やむを得ない事情がある場合は、合理的な理由があるものとして取り扱う
かっこ書きの「税務代理人を含む」というのは、つまり顧問税理士の都合がつかないことも、日程を変更する正当な理由になりうることを示唆しています。
もうひとつ大切なのは、調査官を建物の中に入れた時点で、調査の開始に同意したとみなされるということです。「どうぞ」と言わなくても、招き入れた行為そのものが承諾と受け取られます。
玄関で伝える3つのこと
予告なく調査官が訪れたときは、次の3つを順番に伝えてください。
1. まず、中に入れずに待ってもらう
「顧問税理士に連絡しますので、このままでお待ちください」
玄関先や店舗の入口で対応し、事務所や自宅の中には入れないでください。これが最も重要な初動です。中に入れてしまうと、その時点で調査が始まったものとして扱われます。
2. 今日は都合がつかないことを伝える
「本日は別の予定が入っており、対応できません」
前述のとおり、業務上の都合は日程変更の合理的な理由として認められています。顧問税理士の都合がつかないことも同様です。
3. 次の日程をその場で提示する
「来週であれば、○日か×日でしたら対応できます」
ここが大切です。税務調査には応じる義務(受忍義務)がありますので、「調査を拒否しているのではなく、日程を調整したい」という意思をはっきり示してください。その場で候補日を出すことで、拒否ではないことが明確になります。
なお、調査官がその場で調査を始めようと粘る場合もあります。しかし上記の対応は法令上認められているものですので、落ち着いて、繰り返し伝えてください。
なぜ、最初の対応で結果が変わるのか
「どうせ調査を受けるなら、その場で受けても同じでは」と思われるかもしれません。しかし、初動の違いが結果に影響することがあります。
申告内容を確認する時間がなくなる
事前通知があれば、調査までの間に帳簿や申告内容をあらためて確認できます。もし誤りが見つかれば、調査が始まる前に自主的に修正申告を行うことができます。調査で指摘されてから修正するのと、自ら先に修正するのとでは、加算税の負担が変わります。
その場で調査が始まってしまうと、この機会が失われます。
税理士が立ち会えないまま進んでしまう
顧問税理士が同席していない状態で調査が進むと、質問の意図が分からないまま答えてしまうことが起こりがちです。
税務調査では、その場での回答が記録として残ります。あいまいな記憶で答えたことが、後から訂正しづらくなることもあります。最初の段階でつまずくと、後になって修正するのは簡単ではありません。
さいごに|まずは落ち着いて、ご連絡ください
無予告調査は、件数としては多いものではありません。特に顧問税理士がついている場合、通常は事前通知を経て調査が行われます。
それでも、この記事の内容を知っておいていただきたいのは、実際にその場面が訪れたとき、知っているかどうかで初動がまったく変わるからです。
調査官を前にすると、多くの方が「断ってはいけない」と考えてしまいます。しかし、その場で受ける義務はなく、日程を調整することは正当な対応です。
もし予告なく調査官が訪れたら、中に入れずに、まず当事務所へご連絡ください。そこからの対応は、私どもがご一緒します。
※本記事は、国税通則法および国税庁の法令解釈通達(「国税通則法第7章の2(国税の調査)関係通達」)に基づいて作成しています。個別の事案については、状況により取扱いが異なる場合がありますので、お早めにご相談ください。

下島聡司税理士事務所は、東京都杉並区西荻窪を拠点に、
中小企業・スタートアップの会計・税務・経営支援を行っています。
相続に特化した相談窓口「杉並相続サポートオフィス」を運営。
代表税理士は業界経験20年以上。法人500社以上、個人1000人以上、延べ3000件超の相談対応実績があります。
大手化学メーカー、都内会計事務所、国内最大手税理士法人(BIG4)を経て現職。
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代表税理士 下島聡司

