【国際取引の税務〜支払編⑧〜】支払先から租税条約の適用を受けたいと言われたら

【国際取引の税務〜支払編⑥〜】租税条約による特例を受けるための手続き

海外との取引で支払いをする際に、租税条約を適用すれば源泉徴収が免除または税率が軽減されることは知ってはいたものの、相手方から租税条約の適用を受けたい旨の申し出がなく、租税条約届出書の提出も行っていなければ、原則通りの税率で源泉徴収を行うことになります。

しかし後日、既に支払いが済んだ取引について、相手先から租税条約の適用を受けたいとの申し出があったら、どうすれば良いでしょうか?

租税条約届出書は、支払いの後にでも提出することができ、既に源泉徴収して支払った税金の還付を受けることができます。

今回は、租税条約を適用しないで支払った取引について、後から租税条約を適用する場合の流れをご説明します。

 

【国際取引の税務〜支払編⑧〜】支払先から租税条約の適用を受けたいと言われたら

既に支払いが終わった取引について、後から租税条約届出書を提出できるか

まだ支払う前の段階で、相手方から「租税条約の適用を受けたい」との申し出があったのであれば、租税条約届出書などを急いで準備すれば、租税条約に基づく減免措置を受けることはできます。

【参考記事】租税条約による特例を受けるための手続き

 

しかし、一旦原則通りの税率で源泉徴収をして支払った後で、相手方から「租税条約の適用を受けたい」と言われた場合であっても、一定の書類を提出すれば軽減措置を受けることができ、既に納付した税額についても還付を受けることは可能です。

ただし、提出しなければならない書類が多くなってしまいます。

 

以下、手続きの概要を説明していきます。

 

源泉徴収後における租税条約適用と還付手続き

ケースの前提

今回のケースの前提を整理すると、次の通りとなります。

1.租税条約を適用せず、原則通り源泉徴収を行って、相手方に支払いをした

2.上記1の源泉税を、税務署に納付した

3.支払いが終わった後で、相手先から、租税条約の適用を受けたい旨の申し出があった

上記のようなケースであっても、後日所定の手続きを行うことにより、当初源泉徴収した税額と、租税条約の減免を受けた後の税額との差額について、税務署から還付を受けることができます。

 

誰が手続きを行うか

厳密に言うと、源泉徴収税額を負担しているのは、その支払いを受ける者になりますので、後から租税条約の適用を受けて源泉税の減免を受ける場合には、その支払いを受ける者(外国法人等)が還付請求を行うことになります。

ただし、実務上は、還付請求者(取引対価の支払いを受ける人)ではなく、源泉徴収義務者(取引対価を支払った者)が手続きを取ることも多いようです。

その場合は、源泉徴収義務者を「代理人」として、手続きを行います

 

還付を受けるための手続き

還付手続きを行うためには、次の書類を税務署に提出します。

『租税条約に関する源泉徴収の還付請求書(様式11又は12)』 正副2部

『租税条約届出書』   正副2部

必要に応じて、『特典条項に関する付表』や『居住者証明書』など

 

【参考記事】租税条約による特例を受けるための手続き

 

[手続名]租税条約に関する源泉徴収税額の還付請求

 

 

源泉徴収義務者が代理で手続きを行う場合

上述の通り、この手続きは支払いを受ける者(外国法人等)の名義で行うことになりますが、源泉徴収義務者(支払いを行う者)が代理で手続きを行うこともできます

その場合は、外国法人等による委任状と、その翻訳文を還付請求書に添付して提出することになります。

 

源泉徴収義務者の口座に還付してもらう場合

還付請求書には、還付金の受領場所(受取口座)を記載する欄があります。

(上に添付した請求書フォームの1枚目「2 還付請求金額に関する事項」(3)をご覧ください)

 

通常であれば、その支払いを受ける者(外国法人等)の口座を記載することになります。

ただし、もし源泉徴収義務者(支払いを行う者)の口座に一旦振り込んでもらい、源泉徴収義務者から外国法人等にその金額を送金することも可能です。

その場合は、請求書フォームに源泉徴収義務者の口座を記載した上で、外国法人等からの委任状と、その外国法人等のサイン証明書(日本で言う印鑑証明書の代わりとなるもの)及びこれらの翻訳文を合わせて提出することになります。

 

さいごに

租税条約に基づいて減免措置の適用を受けることができる場合には、届出書を提出するなどの適切な手続きを行わないと、結果的に上記の通り、後日面倒な手続きが必要になってしまいます。

できるだけ最初の支払の時点で、租税条約の適用を受けられるかどうか、また、相手方が租税条約の適用を受けるかどうかを確認することが必要です。

 

 

ご注意事項(必ずお読みください)

・本記事は記事執筆当時の制度・税制をもとに執筆されたものであり、現在の法令や実務とは異なる可能性があります。内容の正確性・最新性について保証するものではありません。

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