【国際取引の税務~支払編④~】源泉徴収の手続き(租税条約届出書、納付、法定調書)

源泉徴収の手続き

前回までに、海外企業への支払いの際には、源泉徴収を行う必要があるということをご説明してきました。

源泉徴収を行わないと、支払者である貴社にペナルティが掛かってしまいます。

海外企業への支払い時に源泉徴収をしなければいけないことは分かったけど、具体的にどのような作業や手続きが必要か迷っている方は、ぜひご一読ください。

【国際取引の税務~支払編④~】源泉徴収の手続き(租税条約届出書、納付、法定調書)

源泉徴収しなければならない海外取引は?

海外に支払いを行う企業は、「非居住者」(海外に居住する個人)または「外国法人」に対して次のような支払いをする場合に、源泉徴収を行う義務があります。

・特許権や商標権などのライセンス料を支払う場合

・機械や不動産の賃貸料などを支払う場合

・人的サービス(弁護士や芸能人など)の報酬を支払う場合

・技術サービスやデザイン料などを支払う場合

・配当を支払う場合

・借入金の利子を支払う場合 など

 

「非居住者」「外国法人」などの詳細については、こちらもご参照下さい。

【国際取引の税務~支払編②~】海外企業に支払いをする際に気をつけること

 

源泉税を納付する

海外に対して源泉徴収が必要な支払いをする場合には、その支払いをする際に一定の税率で源泉税を徴収し、源泉税を控除した金額を支払先に送金するとともに、源泉税については期限内に税務署に納付することになります。

 

源泉税率

税率は支払いの種類によって異なりますが、主な源泉税率は以下の通りです。

源泉徴収税率

 

なお、前回までにもご説明したとおり、租税条約の適用がある場合には税率が減免されることがあります。

主なものとしては、配当やライセンス料を支払う際に源泉税率が10%または0%に減免されるケースや、人的サービスの支払いで源泉税が免除されるケースなどがあります。

租税条約は個々の国ごとに締結されており、支払の内容や条件などによって、それぞれ取扱いや軽減される税率が異なります。
適用できるかどうかの判定が意外と難しいケースもありますので、できれば専門家にご相談いただいた方が良いでしょう。

租税条約に関する手続きについては、下方に記載しています。

 

納期限と納付書

原則として、海外への支払いを行った月の翌月10日までに納付することになります。

納付の際は、次のような納付書を作成して、金融機関で納付するか、e-Taxで提出・納付することになります。

「非居住者・外国法人の所得についての所得税徴収高計算書(納付書)」

 

国内の個人に対して支払う際の源泉税納付書と似ていますが、フォーマットが異なりますので注意してください。

 

特例(国外払いの場合)

海外企業への支払が日本国外で行われる場合でも、その支払いをする者が国内に住所若しくは居所を有し、又は国内に事務所、事業所その他これらに準ずるものを有するときは、国内において支払われたものとみなして、源泉徴収を行う必要があるものとされています。

これは主に、外国に支店や営業所等を有している場合で、その支店等で支払いを行うようなときに源泉徴収が必要となるケースが想定されます。

この場合は、事務手続き等を考慮して、その支払月の翌月末日までに納付すればよいこととされています。

 

租税条約の適用

租税条約の適用があるか調べる

先ほども触れたように、支払先の国と日本との間で租税条約が結ばれている場合には、源泉税について免除されたり、税率が軽減されることがあります。

そのため、支払いを行う前に、まずは租税条約の適用があるかどうかを考慮する必要があります。

厳密に言えば、租税条約の適用を受けるかどうかは、その支払いを受ける相手先の任意ですので、支払う側が必ずしも検討しなければいけないことではありません。

海外からの支払いを受けるケースが多いグローバル企業であれば、支払い側から何も言わなくても、「租税条約に関する適用を受けたい」旨の申し出があると思います。

しかし、相手先の担当者が租税条約について詳しくない場合には、支払い側から「租税条約の適用を受けるかどうか」を確認することも必要と思われます。

 

租税条約届出書を提出してもらう

租税条約によって源泉税の取扱いが減免される場合には、一定の手続きを行うことで、その適用を受けることが可能となります。

租税条約の適用を受けるために必要な手続きは、以下の通りです。

① 相手方から「租税条約に関する届出書」(租税条約届出書)を提出してもらう
    ↓
② 提出してもらった租税条約届出書を税務署に提出する
    ↓
③ 源泉税を差し引いて相手方に支払う
    ↓
④ 源泉税を税務署に納付する

これを簡単な図で説明すると、次のようなイメージになります。

 

租税条約届出書の提出フロー

 

租税条約届出書とは?

租税条約届出書とは、名称からも分かる通り、租税条約の適用を受けるために税務署に提出する書類です。

租税条約により源泉税の減免を受けるのは、その支払いを受ける人なので、支払いを受ける人の名義で書類を提出することになります。

ただし、その支払いを受ける人は日本に拠点を持っていないため、その支払いをする者が代わりに税務署に提出することになっています。

書類のフォーマットは、支払いの種類ごとに用紙が異なっています。

一例ですが、配当を支払う場合のフォーマットは、次のようなものです。
租税条約届出書 


【国税庁HP 税務手続きの案内】源泉所得税(租税条約等)関係

 

上記の他に、その支払先がアメリカ・イギリス・フランスなど場合には、『特典条項に関する付表』などの書類が必要となるケースがあります。

租税条約届出書の手続きについては、次回あらためて詳しくご説明したいと思います。

 

支払調書を提出する

国内の会社や個人にデザイン報酬や税理士報酬を支払う場合には、支払調書(法定調書)を作成して税務署に提出しなければなりません。

これと同様に、海外に対して一定の支払いをする場合にも、支払調書を提出することになっており、その支払った年の翌年1月末日までに税務署長に提出することになっています。

支払調書の種類としては、国内の会社や個人に支払った場合と同様のものとして、「利子等」「配当等」「株式等の譲渡対価」に係るものがありますが、これ以外に、海外への支払いの際に特別に用意されている支払調書があります。

一般の会社が海外への支払いに当たって必要となる支払調書として、主なものは次の通りです。

非居住者等に支払われる人的役務提供事業の対価の支払調書(同合計表)
→人的役務の提供に係る対価を支払ったとき

非居住者等に支払われる不動産の使用料等の支払調書(同合計表)
→不動産、不動産の上に存する権利、船舶、航空機、採石権等の使用料を支払ったとき

非居住者等に支払われる借入金の利子の支払調書(同合計表)
→業務の用に供した借入金の利子を支払ったとき

非居住者等に支払われる工業所有権の使用料等の支払調書(同合計表)
→工業所有権、ノウハウ、著作権等の使用料又は譲受けの対価を支払ったとき

非居住者等に支払われる機械等の使用料の支払調書(同合計表)
→機械装置、車両、運搬具、工具、器具、備品の使用料を支払ったとき

非居住者等に支払われる給与、報酬、年金及び賞金の支払調書(同合計表)
→給与等又は弁護士、芸能人の報酬あるいは広告宣伝のための賞金を支払ったとき

 

上記の支払調書は、その支払金額が年50万円(不動産の譲渡等の場合は100万円)を超える場合に、税務署への提出が必要とされています。

 

納税証明書の発行を依頼されたら

海外との取引に当たって、源泉徴収をしてから支払った場合には、相手方より納税証明書を発行してほしいと依頼されることがあります。

この場合には、税務署に納税証明書の発行依頼をすることになります。

こちらの手続きは、次回ご説明します。

【参考記事】支払先から納税証明書の発行を依頼された場合

 

 

さいごに

海外に支払う機会が少ないと、手続きに戸惑ってしまうことが予想されます。

また、普段から海外取引を頻繁に行っていたとしても、意外と手続きについては不備がある会社を多く見掛けています。

後々の税務調査で大きなペナルティを受けないためにも、早い段階で適切な手続きが行われているか確認されることをお勧めします。

 

 

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(更新予定)
海外企業に支払いをする際に気をつけること
源泉徴収の要否を判定する(基本的な流れ)
源泉徴収しないとどうなるか
源泉徴収の手続き(租税条約の届出、納付方法、法定調書など)
海外企業に仕入れ代金を支払う場合
海外企業にロイヤルティを支払う場合
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