【国際取引の税務~支払編③~】源泉徴収しないとどうなるか?
前回までに、海外企業への支払いの際には、源泉徴収を行う必要があるということをご説明してきました。
今回は、もし源泉徴収が必要な支払いについて、うっかり(又は源泉徴収すべきであると知らずに)源泉徴収を行わなかった場合に、どんな影響があるのかをご紹介したいと思います。
【国際取引の税務~支払編③~】源泉徴収しないとどうなるか?
“支払いをする人” に源泉徴収の義務がある
誰が税金を負担するか
前回の記事でも、源泉徴収は、海外取引に関する支払いをする側にその義務がある、ということをご説明しました。
収入があれば、その収入に対して税金が掛かるというのは、日本の法人税や所得税などの基本です。
ビジネスを行って儲けたお金や、会社で働いて得た給料に対しては、そのお金を儲けた人や給料をもらった人が、税金を納めることになります。
この場合、その収入を受けた人が税金を国や自治体に支払うことになりますので、収入を受ける人がきちんと申告していれば、源泉徴収を忘れていても問題ないように見えるかもしれません。
国や自治体はその収入に対して適正な税金を徴収できているので、トータルで見れば税収は間違っておらず、問題はなさそうです(下記ケース②−1参照)。
税金の二重取りもあり得る
しかし税法の上では、「最終的な税金を支払うこと(この場合は、収入を受けた人が申告すること)」と、「源泉徴収すること」は別個のものとして取り扱われています。
たとえ最終的に税金を負担すべき人が正しく申告して税金を納めていたとしても、もし取引先への支払時に源泉徴収を忘れていたら、その取引について支払いをする人にペナルティが掛かってきます。
具体的には、源泉徴収を忘れていた会社に対して、徴収漏れ(納付漏れ)の源泉税の追加納付が必要となる上に、不納付加算税というペナルティと、延滞税という利息が掛かってくることになります。
源泉徴収を忘れたらどうなるか
上述の”税金の二重取り”について、国内の取引を例に簡単にご説明したいと思います。
例えば、デザインを外注したフリーランスの方に、外注費として10,000円の支払いをするケースを考えてみます。
説明をシンプルにするために、源泉徴収税率は10%とします。
また、このフリーランスの方は、自分で確定申告をして30%の税金を納めることとします。
<ケース①> 正しく源泉徴収した場合
ケース①は、きちんと源泉徴収をした場合です。
支払者であるA社は、外注先であるフリーランスのBさんに外注費を支払う際に1,000円の源泉徴収をして、残額の9,000円を支払っています。
この際に源泉徴収した1,000円は、支払者であるA社が国(税務署)に納付します。
Bさんは、収入を税務署に申告して税金を払います。
仮にBさんの今年の税率が30%だったとすると、Bさんが納めるべき税金は3,000円です。
ただし、既にA社から1,000円を源泉徴収されていますので、Bさんが税務署に実際に支払うのは2,000円になります。
<ケース②-1>源泉徴収を忘れていた場合
一方でケース②-1は、源泉徴収を忘れてしまった場合です。
A社がBさんに支払う際、源泉徴収後の9,000円を支払うべきところ、税引前の10,000円を支払っています。
源泉徴収していませんので、国(税務署)に対しても源泉税の納付をしていません。
源泉徴収を忘れても、トータルで国が受け取る税金はケース①と変わりません。
ケース①の場合、国が受け取る税金は、A社から1,000円とBさんから2,000円で、合計3,000円です。
ケース②-1の場合も、国はBさんから3,000円の税金を受け取っています。
しかしこの場合は、ケース②-2で説明する通り、A社は税務調査で源泉徴収漏れを指摘されて、追加で源泉税を支払うことになります。
<ケース②-2>税務調査で指摘を受けた場合
ケース②-2は、源泉徴収を忘れていた会社(外注費を支払ったA社)に税務調査が入った場合です。
源泉徴収は支払う人の義務ですので、源泉徴収漏れが発覚すると、A社に対して納め忘れていた税金を後から納付するように指摘を受けます。
支払を受けたBさんは正しい申告をしているにもかかわらず、外注費を支払ったA社は源泉徴収漏れの1,000円を納税する義務が生じてしまいます。
さらにA社は、ペナルティとして不納付加算税(納付漏れの税額の10%)と、期間に応じて延滞税が課されることになります。
このように、収入を得たBさんが正しく納税していたとしても、本来なら源泉徴収すべきであったA社が源泉徴収を忘れていたら、A社は後からでも源泉税を納付しなければならないことになります。
(本稿では、海外への支払いや国内外注先への支払いを例に説明していますが、従業員に対する給与支払いについても同様です。例えば「社員が自分で確定申告するので、会社としては源泉徴収していません」という話を稀に聞きますが、この場合も上記のように本来源泉徴収すべき会社にペナルティが課されることになります)
納付漏れで支払った源泉税は、支払先から還付してもらえるか?
源泉漏れがあったら、一旦は国に納付が必要
ケース②-2のように、支払いの際に源泉徴収を忘れていた場合は、通常は税務署への納付も漏れているわけですから、この納付漏れの分について国(税務署)に納付しなければなりません。
もし税務調査で源泉徴収及び納付漏れが発覚すれば、税務署長はその支払者から納付漏れの分を徴収することとなっています。
この場合、「不納付加算税」というペナルティと、「延滞税」という利息を合わせて支払います。
不納付加算税は、納付漏れの税金の10%です。
延滞税は、本来の納期限から納付日までの期間に応じて、納付漏れの税金の3%前後(本来の納期限の翌日から2月以内の期間)及び9%前後(本来の納期限の翌日から2月経過日以後)となり、最長で1年分の延滞税が掛かります。
なお、税務調査で指摘を受ける前に、自主的に納付した場合には、不納付加算税は5%に減額されます。
(その他、不納付加算税が5,000円未満の場合や、過去1年間に納付が遅れたことがなく、かつ納付期限から1ヶ月以内に納付した場合などには、不納付加算税は課されないこととなっています)
取引の相手方への過払いはどうするか?
追加で納税した源泉税は、本来であれば取引相手への支払金額から天引きすべきだった金額です。
つまり、本来なら相手先への支払いは9,000円(取引対価10,000円ー源泉税1,000円)だったところ、実際は10,000円を支払っている訳ですから、この1,000円は相手先から返してもらうのが本来あるべき方法です。
税法上も、次のような方法を認めています。
・その相手先に支払う予定の金額がある場合には、その後に支払う金額から控除する
・徴収漏れだった金額を後日請求する
後から請求したり相殺するのは大変面倒ですし、実際には取引先が了承してくれなくて、源泉徴収漏れの金額を自社で負担しているケースが多いのではないかと思います。
ちなみに、請求できるのは徴収漏れの源泉所得税である本税相当分のみですので、不納付加算税や延滞税などは請求できません。
租税条約届出書の提出を忘れていた場合
上記は、本来は源泉徴収すべきであったのに、もし源泉徴収するのを忘れていたような場合のケースを例に説明しました。
海外との取引の場合は、租税条約を適用することで、源泉徴収が不要になったり、源泉徴収すべき税額を少なくすることができます(これを「減免措置」と言います)。
租税条約の減免措置を受けるためには、その取引の支払いをする前に、租税条約届出書などの必要な手続きを行う必要があります。
たとえば、もし租税条約届出書などの必要な手続きを行わなかったにもかかわらず、租税条約で認められている減免措置を適用して源泉徴収しなかった場合にも、本来徴収すべき税額が漏れていることになりますので、上記と同様に、後日、納付漏れの源泉税とペナルティ・延滞税などを支払う必要があります。
詳細については、次の記事でご説明したいと思います。
【参考記事】租税条約届出書の提出を忘れてしまった場合
さいごに
このように、取引対価を支払う際に源泉徴収を忘れてしまうと、受け取った側がきちんと申告していたとしても、源泉徴収を怠った側にペナルティが生じることになってしまいます。
また、源泉税の追加納付をした後では、取引の相手方にその分を請求することが難しいでしょうから、実務的には支払い側が追加納付分を負担するケースが多いと思われます。
そのようなケースでは、その取引の支払いを行う人は、最終的に取引金額の110%以上を支払うことになってしまいます。
源泉徴収漏れの負担は大き過ぎますので、徴収漏れがないよう、十分に注意することが必要です。
次回のお話
次回は、源泉徴収の具体的な手続きをご説明します。
租税条約の減免を受けるための手続きから、納付書の作成、相手先への通知、支払調書の作成、さらには納税証明書の発行を相手先から依頼されることもあるかもしれません。
海外企業への支払い時に源泉徴収をしなければいけないことは分かったけど、具体的にどのような作業や手続きが必要か迷っている方は、ぜひご一読ください。
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海外企業への支払いに関するテーマで、ブログを更新しています。
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(更新予定)
海外企業に支払いをする際に気をつけること
源泉徴収の要否を判定する(基本的な流れ)
源泉徴収しないとどうなるか
源泉徴収の手続き(租税条約の届出、納付方法、法定調書など)
海外企業に仕入れ代金を支払う場合
海外企業にロイヤルティを支払う場合
海外企業にソフトウェア開発の委託費を支払う場合 など
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