インド法人に対して役務提供の対価を支払う場合の源泉徴収【国際取引の税務~支払編・事例⑰〜】

【国際取引の税務~支払編・事例⑰】インド法人に対して役務提供の対価を支払う場合

以前の記事でも紹介しましたが、インド法人に対する役務提供の対価については、他の国の会社や個人に対する取扱いとは異なっていますので、注意が必要です。

今回は、インド法人に対してソフトウェアの開発委託を行った場合に、その委託料を支払う際の注意点をご説明します。

【支払編・事例⑰】インド法人に対して役務提供の対価を支払う場合

 

【質問】インド法人に委託料を支払う場合に源泉徴収は必要か?

当社は、国内で販売する予定のソフトウェアについて、機能の一部分の開発・制作をインド法人であるソフトウェア開発会社に委託することになりました。

具体的な開発作業については、当社が仕様書を作成し、その仕様書に基づいてインド法人がインド国内において開発を行うことになります。
また、開発されたソフトウェアの著作権や所有権などは、原則として当社に帰属するものとされています。

この場合、当社が支払う委託料について源泉徴収は必要でしょうか?

 

ご質問への回答

 

ご質問のケースが単純な開発作業の委託であり、その業務がインド国内で行われるものであっても、インドとの租税条約により、源泉徴収が必要とされます。

この場合の源泉徴収税率は、租税条約届出書を提出していれば10%となりますが、届出書の提出がない場合には20.42%の源泉徴収が必要です。

 

解説

国内法の取扱い

ご質問の内容から推察するに、貴社は販売するソフトウェアの企画や開発指示までを行うものと想定され、委託先の開発会社は、貴社が作成した仕様書に基づいて開発作業を行うとのことですので、その開発作業に付随して生じる著作権などの権利を貴社が取得するような行為ではないものと考えられます。

貴社が企画して開発を行うソフトウェアの一部について、その開発業務を委託する行為は、業務委託契約に基づく役務の提供であると考えられますので、その開発作業が日本国内で行われるものでない限り、国内法においては源泉徴収の対象とはなりません。

 

なお、その開発の内容が、著作権の譲渡を含むような契約(例えば、ソフトウェアやゲームソフトの開発などで、相手方から著作権の譲渡を受けることが明確にされているものなど)である場合には、国内法及び租税条約で規定される「使用料」に該当することが想定されますので、その対価につき源泉徴収が必要となる可能性があります。

 

租税条約の取扱い

ただし、これがインドの会社に対する開発委託の場合には、取扱いが異なります

インドとの間で締結された租税条約によると、使用料条項である同条約12条4項において、「技術者その他の人員によって提供される技術的性質の役務に対する料金」については、いわゆる「使用料」に含まれるものとされています。

その場合は、その開発業務が日本国外で行われていたとしても、日本法人がインド法人に支払う開発委託の対価は、源泉徴収が必要となっています。

租税条約届出書を提出すれば10%の源泉徴収となりますが、届出書の提出などの所定の手続きを行わないと、国内法に従って20.42%の源泉徴収が必要となります。

 

インド法人の日本における税務申告

通常は、国内法又は租税条約により外国法人に対する支払いについて源泉徴収をすれば、その外国法人は日本における納税義務が完了しますので、その外国法人は日本において特に税務申告を行う必要はありません。

しかし、本件のように、インド法人が受け取る役務提供の対価については、特殊な取扱いが適用されることになり、いくらインド法人が日本に拠点等を有していなかったとしても、日本における確定申告が必要となるものと考えられます。

この場合、インド法人は納税管理人という日本における税務申告を行う代理人を選定して届け出た上で、法人税の確定申告書を提出する必要があります。

源泉徴収までは何とか対応したものの、インド法人の申告義務まではカバー出来ていないケースが大変多いものと推測されます。

もしインド法人に対して支払いを行う場合には、相手先への説明や注意喚起を行うなど、何らかの対応が必要と思われます。

 

 

 

源泉徴収の手続き

源泉徴収の手続きについては、こちらの記事を参照下さい。

【参考記事】
【国際取引の税務~支払編④~】源泉徴収の手続き(租税条約届出書、納付、法定調書)

 

租税条約の適用を受けることができる場合には、こちらの記事も参照ください。

【参考記事】
【国際取引の税務~支払編⑥~】租税条約による特例を受けるための手続き

なお、今回のご質問のようにインド法人に対する技術上の役務提供対価が「使用料」として取り扱われる場合には、一般的に『様式3 租税条約に関する届出書(使用料に対する所得税の軽減・免除)』を使用することになると考えられます。

 

参考条文

所得税法161条二号、同162条
所得税法施行令282条
所得税基本通達
法人税法138条、同139条、同141条
日印租税条約12条

 

 

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