来年の確定申告に向けて②(青色申告編)
今回も、来年の確定申告に向けた節税対策のひとつとして、青色申告についてご説明したいと思います。
青色申告は、言葉だけは知っていても、意外と具体的な内容までは知らない方が多いようです。
今回は、青色申告の基本的なところからご説明していきます。
来年の確定申告に向けて②(青色申告編)
青色申告とは?
青色申告は、個人事業主が確定申告する際の、基本中の基本です。
ただ、「青色申告」という名前は聞いたことがあっても、具体的にどんなメリットがあるのかご存知ない方が意外と多くいらっしゃるようですので、簡単にご説明しておきます。
その前に、個人事業者が行う確定申告の基礎については、こちらもご参照下さい。
白色申告と青色申告の違い
個人事業主の方の確定申告には、「白色申告」と「青色申告」があります。
白色申告であれば、少し勉強すれば自分でも確定申告を完成させることは可能ですが、取れる節税対策はとても少なくなります。
一方で青色申告の場合は、最高で65万円・最低10万円の特別控除を始めとして、いろいろな節税策が取れる一方で、ルールに則った帳簿付けが大変になります。
(それでも、65万円の控除が取れれば、税額にして10万円以上の節税になりますので効果は絶大です)
事前に申請が必要
青色申告を行うためには、事前に税務署に申請しなければなりません。
平成29年分から青色申告を開始したい方は、前の年の確定申告書の提出期限、つまり平成29年3月15日までに申請書を提出する必要があります。
(これから提出する平成28年分については、今から申請しても間に合いませんのでご了承下さい)
なお、平成29年1月16日以降に事業を開始した方は、事業開始後2ヶ月以内に申請書を提出すれば、青色申告を行うことができます。
ちなみに「申請」と言っていますが、特に厳密な審査がある訳ではありませんし、「審査に通った」という通知が来るわけではありません。
一般的には、申請さえ出せば青色申告を始めることができます。
青色申告のメリット
青色申告を行うことによる代表的なメリットは、以下の通りです。
・最大で65万円の経費を認めてもらえる(青色申告特別控除)
・家族への給与を経費として認めてもらえる(青色事業専従者給与)
・赤字になった時に、翌年以降に繰り越せる(純損失の繰越控除)
・30万円未満の固定資産を一括で費用処理できる
今回は、上記についてそれぞれご説明していきます。
青色申告特別控除
青色申告は帳簿付けなどの手続きが大変、とは良く耳にするかと思います。
大変なだけなら誰も青色申告なんて選びませんが、苦労してでも青色申告をすることのメリットはとても大きいです。
その代表的なものが、最大65万円の特別控除になります。
そもそも税金の計算方法とは?
「特別控除」とは、「支払っていない経費を認めてくれる」制度です。
そもそも税金の計算は、次のような順番で計算します。 基本的な考え方としては、収入(売上)から支出(経費)を引いた残り(儲け)に対して、税金が掛かることになります。
もう少し詳しく説明すると、
① 収入から支出を引いて、儲けを計算する
② 儲けから「青色申告特別控除」を引いて、所得金額を計算する
③ ②の金額から、社会保険料や医療費控除、ふるさと納税などの「所得控除」を差し引く
④ ③の金額に税率を掛けて、支払う税金を計算する
基本的には、売上などの収入から、実際に支払ったもの(経費や医療費控除など)を引いた残りに税金が掛かる仕組みになっていますが、 今回ご説明している「青色申告特別控除」は、実際に支払っていない金額を、大変な帳簿付けを行ったご褒美として差し引いてくれるという制度です。
要するに「アメとムチ」で、きちんとルールに沿った帳簿付けをすれば税金を優遇しますが、手抜きをしたい人は特典を受けられませんよ、ということになります。
実際のところどれくらいのメリットがあるのか?
65万円の控除というのは、税金が65万円安くなるわけではありません。
かんたんに言えば、支払っていない経費を65万円認めてもらうのと、同じ効果があります。
具体的な節税メリットは以下の通りです。 (所得税率10%で試算しています)
たとえば今まで白色申告だった方が、青色申告の65万円控除を受けることで、13万円もの税金が安くなる計算になります。
また、青色申告をしていたものの、複式簿記のハードルが高くて10万円控除しか取っていなかった方でも、11万円(最低でも8万円)も節税することができます。
この節税金額は所得税と住民税だけの試算ですが、事業税や国民健康保険料にも影響しますので、更に効果は大きくなります。
逆に考えれば、もし年末に13万円の税金を安くしようとしたら、65万円分の経費を使わなければなりません。
しかも、当たり前ですが65万円の”お金”が手元から無くなってしまいます。
「特別控除」は、無駄な経費としてお金を使わなくても、その分の経費があったものとして、税金を安くしてくれる制度です。
青色事業専従者給与
専従者給与とは?
青色申告をされている方は、ご家族に対する給与を必要経費として認めてもらうことができます。
これを「青色事業専従者給与」と言います。
通常は、同一家計内の家族(同居してひとつの財布で生活していたり、仕送りをしている家族など)に給与を支払っても、事業の経費としては認めてもらえません。
実は、白色申告でも同様の制度があるのですが、次のような要件を満たす必要があり、上限は専従者一人につき50万円(配偶者の場合は86万円)です。
・本人と生計を一にしていること
・その年を通じて6ヶ月超の期間、その事業に専従していること
これらの制度を適用すると、配偶者控除や扶養控除は使えなくなりますが、配偶者控除などは38万円の控除額ですので、若干メリットはあります。
なお大前提として、そのご家族が他にお仕事をされている場合には、専従者給与を経費にできませんのでご注意下さい。
青色の場合
その一方で、青色事業専従者給与は、ルールの上では上限金額がありません。
生計を一にする家族にに支払った給与は、基本的には全額を経費にすることができます。
先程「ルールの上では」と書いたのには、2つの意味があります。
①届出が必要
ひとつは、事前に届出が必要なことです。
白色の専従者とは異なり、事前に「誰に、いくら払います」という届出が必要となり、その届け出た範囲内でしか経費として認められません。
なお、届出には次のような期限があります。
<開業してすぐに専従者に給与を払う場合>
開業日から2ヶ月以内(1/1〜1/15までの開業の場合は、その年の3月15日まで)
<新たに専従者に給与を支払う場合>
適用を受けようとする年の3月15日まで(新たに専従者を定めるときは、2ヶ月以内)
②給与が高すぎないこと
ふたつめは、常識的に考えて高すぎる給与は認められない、ということです。
手伝っている業務の内容や、どの程度手伝っているのか、またどれくらいの期間そのお仕事を手伝っているのか、といった状況を総合的に見て、適正額を決めていくことになります。
また、世間の給与相場に比べても妥当な金額でなければなりません。
いくらが妥当なのかは、個々の状況によっても異なります。
高すぎる給与がダメだといっても、例えば月15万円の給料を家族に支払えば、年間で180万円の経費になりますので、配偶者控除(38万円)や白色の専従者控除(86万円)よりも効果は大きいです。
青色事業専従者給与を払う場合の注意点
「給料の金額が高すぎると認められない」と書きましたが、逆に安すぎると節税効果が全くなくなります。
先ほどもご説明したように、専従者給与を取ると、扶養控除や配偶者控除は受けられません。
例えば、配偶者控除や扶養控除の金額は最低38万円ですが、給料を月3万円にしてしまうと、年間36万円の経費しか計上できないので、逆に損になってしまいます。
それから、親族に給料を支払う場合であっても、基本的には定期的に毎月、できれば銀行口座への振込をした方がベターです。
一時的に支払うのが厳しい月についても、帳簿に「未払給与」として載せておいて、後できちんと支払うことが大切です。
また、家族に青色事業専従者給与を支払う場合には、「青色事業専従者給与に関する届出書」という書類を提出するとともに、「給与支払事務所等の開設届出書」や「源泉所得税の納期の特例に関する申請書」という書類も必要な場合があります。
毎月の給与金額はいくらが良いのか、これから給与を支払う場合にどうしたら良いのか、といったご不安があれば、税理士にご相談ください。
赤字を繰り越せる場合とは?
事業を始めたばかりの年や、大きな取引先が倒産してしまった場合など、どうしても赤字になってしまう年はあるかもしれません。
そんな場合には、もちろん所得税や住民税などの税金は掛かりませんが、事業が赤字になったからと言って、特に国や自治体からお金をもらえるわけではありません。
青色申告の場合には、万が一事業で赤字になった場合にも、その赤字分を翌年以降の黒字と相殺できることになっています。
これを、「純損失の繰越控除」と言います。
繰り越せるのは、赤字を出してから3年以内です。
赤字の金額を翌年に繰り越した場合、例えば翌年に利益が出たときに、その利益から繰り越した赤字を差し引くことができますので、結果的に翌年以降の税金が安くなることになります。
たまに、 「事業を始めたばかりで最初は赤字だから、確定申告しくても良いですよね?」 という方がいらっしゃいます。
手間を考えれば、確定申告しないという選択肢もあるかもしれませんが、この「純損失の繰越控除」制度は、確定申告しないと受けられません。
数年単位で考えれば、確定申告をして赤字を繰り越したほうが、トータルでの税金は安くなることになります。
なお、もしその年に事業以外に収入がある場合、例えば生命保険の一時金や不動産収入などがあれば、まずはそれらの所得と相殺することになります。
他の収入で利益が出ているようなら、翌年以降に赤字を繰り越さなくても、その年に税金が安くなることになります。
赤字として繰り越せるのは、これらの相殺(損益通算と言います)をしてもなお赤字になる場合です。
30万円未満の備品は一括で費用化
10万円以上の資産を購入した場合には、固定資産として計上して、購入金額を数年間で按分して経費に計上します。
これを「減価償却」と言います。
通常であれば購入した年に一括で費用にはできず、一定の期間(耐用年数)で均等に費用化していくことになります。
ここで青色申告の場合には、10万円以上の資産であっても、30万円未満のものであれば、その購入した年に一括して費用化してもよいという特例があります。
この特例には上限があって、一年間のうちに10万円以上30万円未満の資産の合計が300万円まで、とされていますが、普通はこの上限まで購入することはないと思いますので、あまり気にしなくても良いかもしれません。
なお、10万円未満であれば、白色申告でも青色申告でも、その支出した年に一括して費用にすることができます。
副業でも青色申告できるか?
先ほど「申請さえ出せば青色申告はできる」と書きましたが、厳密には、誰でも青色申告できるわけではありません。
まず大前提として、事業に関する収入(事業所得)がある方や、土地や建物の賃貸収入(不動産所得)がある方が対象です。
さらに、その事業の規模に応じて、青色申告できるかどうかが変わってきます。
詳細については、こちらの記事をご参照ください。
→【確定申告の基礎】副業でも青色申告できるか?
→【確定申告の基礎】不動産所得の事業的規模とは?
青色申告のデメリット
青色申告をすれば様々なメリットを受けることができますが、もちろん、要件があります。
例えば65万円控除の適用を受けるためには、
「事業的規模であること」
「複式簿記に沿った帳簿を付けて、貸借対照表を作ること」
「期限内に確定申告書を提出すること」
などの条件があります。
デメリットという観点では、簿記の勉強をしたことがない方や、数字や計算が苦手な方にとっては、2番めの「複式簿記に沿った帳簿付け」のハードルがかなり高いのではないかと思います。
最近ではクラウド上で使える会計ソフト(freeeやMFクラウドなど)も出てきて、記帳の手間を減らしてくれていますが、それでも貸借対照表を作ったり、決算処理をしたり、節税に有利な処理を行うといった作業は、難しいと感じる方もいらっしゃるのではないかと思います。
それでも、最初にご説明したように、青色申告特別控除を使えば10万円以上の節税になりますから、チャレンジする価値はあるのではないかと思います。
さいごに
青色申告は、個人事業主の方であればぜひ利用していただきたい制度です。
65万円の特別控除や、青色事業専従者給与は、正確な知識をもってキチンと処理すれば、それだけで大きな節税効果を受けられます。
個々の事情によっては、メリットやデメリットが異なってくる場合もあるかもしれません。
事前にしっかりとシミュレーションしたり、検討しておくことが大切です。
次回は、個人事業主の退職金や年金資産を作りながら節税する方法についてご紹介します。
<次回以降の更新予定>
「来年の確定申告に向けて」
来年の確定申告に向けて①(概要編〜主な節税対策〜)
来年の確定申告に向けて②(青色申告の基礎) ←今回の記事です
来年の確定申告に向けて③(退職金や保険で節税する)
来年の確定申告に向けて④(法人成りを検討する)
来年の確定申告に向けて⑤(その他の節税対策)
今年の確定申告でもできる節税方法
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