【国際取引の税務~支払編②~】源泉徴収の要否を判定する

【国際取引の税務~支払編②~】源泉徴収の要否を判定する

 

前回の記事では、海外企業への支払いおいて税務上もっとも気を付けなければならないのは、源泉徴収すべきかどうかの判断であるというお話をさせて頂きました。

源泉徴収の要否を判定するフローは個々の事例によって異なりますが、今回は基本的な流れをご説明したいと思います。

【国際取引の税務~支払編②~】源泉徴収の要否を判定する(基本的な流れ)

具体的な判断の流れは個々のケースにより異なりますし、考慮しなければならない細かいルールもあります。

ここでは、一般的にどのような流れで判断を行うのかをご紹介したいと思います。

 

1.支払先が外国法人かどうか

 

海外への支払いの際に源泉徴収しなければならないのは、その支払う相手先が「非居住者」か「外国法人」に該当する場合です。

そこでまずは、支払先が「非居住者」や「外国法人」に該当するかどうかを確認します。

名称だけでは日本法人(税法上の内国法人)か外国法人かが分からないケースもあります。例えば日本企業の海外子会社は外国法人ですが、グローバル企業の日本子会社は内国法人です。

 

非居住者とは

非居住者とは、簡単に言えば、日本国内に住所を有しておらず、かつ、現在まで1年以上引き続き日本に住んでいないような方を指します。

従って、主に日本に住んでいない外国人が該当しますが、たとえば1年以上の予定で海外勤務をする日本人の方も該当します。

 

外国法人とは

日本の税法上、日本の会社を「内国法人」、外国の会社を「外国法人」と言います。

内国法人とは、日本で登記している会社で、登記上の本店(メインとなる住所)が日本国内にある会社と考えて頂ければ結構です。

外国法人は、「内国法人」以外の方人です。

 

先ほども触れたように、日本の法人が海外に子会社を作ったら、その海外子会社は「外国法人」になります。

そのため、支払先の会社名がよく知っている日本の会社だったとしても、実態は外国法人である可能性もありますので、判断が難しい場合には相手先に確認することも必要です。

 

 

非居住者や外国法人を区分するのが難しい場面もありますが、一般的には、海外に居住している方や、日本に本店や支店を有していない法人をイメージして頂ければ結構です。

ただし、源泉徴収漏れを防ぐためにも、何らかの支払いをする際には、その相手が外国人や外国法人であるかどうか、また、その相手先の住所や本店所在地を確認する習慣を付けることが大切です。

なお、相手が非居住者や外国法人でなかったとしても、それが個人に対する支払いであり、さらに源泉徴収の対象となる支払いであれば、源泉徴収を行わなければなりませんのでご注意下さい。

 

2.支払内容を確認する

 

支払いパターン

「支払内容を確認する」というのは当たり前のように思われるかもしれませんが、ここはとても大事なポイントです。

具体的には、主に契約書やサービス約款、請求書や見積書などを確認して、その支払いが税法上のどのような支払いに該当するかを判定することになります。

 

このステップは、簡単そうに見えて、意外と難しい作業になります。

というのも、取引の内容というのは、シンプルなように見えて、これを法律に当てはめて分類しようとすると、どれに該当するのか悩んでしまうケースが非常に多いからです。

実務で数多くの源泉徴収の判断を行っている私たちプロであっても、このステップを最も重視しますし、一番時間が掛かる部分かもしれません。

 

一般的な海外への支払いのパターンは、大きく分けると次のようなものがあります。

・製品や商品の輸入代金の支払い

・特許権などのライセンス料の支払い

・サービス料金の支払い

・配当を支払う場合

・借入金の利子を支払う場合 など

 

単なる輸入取引でも源泉徴収は必要か?

製品や商品の単なる輸入だけであれば、判定はそれほど難しくないように思われるかもしれません。

「商品の輸入です」ということで終わりでも良いケースも実際多いです。

 

しかし、その製品や商品の輸入に関する支払いを見ると、商品代金とは別に、商標権や特許権の使用料が含まれていることがあります。

更には、購入前後のサポートとして、テクニカルサポートが付いているケースもあったりします。

 

商標権のライセンス料は、源泉徴収の対象となる「使用料」に該当します。

テクニカルサポートは、場合によっては「人的役務の提供対価」として、源泉徴収が必要となるケースもあります。

 

このように、支払内容を税法に基づいて正確に判定するのは意外と難しく、判断を誤ると以下のステップをもう一度やり直さなければならないので、判断は十分慎重に行わなければなりません。

 

3.日本の税法をもとに源泉徴収が必要か判断する

 

源泉徴収の対称となるものは?

上記で判定した支払内容が、日本の税法上、どのような取扱いになっているかを調べます。

海外企業への支払いで源泉徴収が必要となるのは、その海外企業が(日本の)「国内源泉所得」を得ている場合です。

 

国内源泉所得」というのは、税法でその定義が定められており、法律上は「その所得の発生源泉地が日本国内にあるもの」を指しています。

例えば日本国内に支店を設けてビジネスを行ったり、日本国内に保有している不動産などの資産を賃貸したり譲渡したりして得た所得も「国内源泉所得」に含まれます。

 

「国内源泉所得」のうち、源泉徴収の対象となる主な支払いは以下の通りです。

実際に源泉徴収が必要になるかどうかは、それぞれ判定フローが異なりますので、ここでは説明を割愛します。

このような取引があれば、源泉徴収が必要になるかもしれない、と注意してください。

 

・特許権や商標権などのライセンス料を支払う場合

・機械や不動産の賃貸料などを支払う場合

・人的サービス(弁護士や芸能人など)の報酬を支払う場合

・技術サービスやデザイン料などを支払う場合

・配当を支払う場合

・借入金の利子を支払う場合

・給与 など

 

源泉税率はいくらか?

源泉徴収が必要な場合は、その支払い金額に対して○○%徴収するというように、税率が決められています。

一般的な支払いであれば、20.42%(復興特別所得税を含む)となるケースが多いです。

 

 

4.租税条約の取扱いを調べる

 

上記の日本の税法だけを調べれば終わり、ではありません。

前回もご説明したとおり、主要国との間には「租税条約」という特別な取り決めがあり、国家間で共通の課税ルールが決められています。

 

源泉徴収に関して言えば、租税条約を適用することにより、次のように源泉徴収が減免(免除されたり、税率が低くなったりする)されるケースがあります。

①日本の税法では源泉徴収が必要だが、租税条約により源泉徴収が不要となるケース

②日本の税法では源泉税率が20.42%だが、租税条約により源泉税率が10%になるケース など

 

①租税条約により源泉徴収が免除されるケース

よくあるケースとしては、弁護士や教授、技術サービスなどの学術的・技術的な専門サービスについて、日本では源泉徴収が必要なケースでも、租税条約により免税となるケースがあります。

また、先進国間での配当の支払いについては、源泉税率が0%とされる場合があります(親子間の配当など、所有している株式数に応じて税率が変わるケースがあります)。

この他にも、日本では「国内源泉所得」に該当するものが、租税条約により、「日本の」国内源泉所得ではなく、「相手国の」所得であるとされるケースもあります。

支払いの種類(配当なのか使用料なのか等)や、相手先の国ごとに取扱いは異なりますので、実際には租税条約の条文を調べることになります。

 

②源泉税率が軽減されるケース

特許権などのライセンス料(使用料)や、配当に係る源泉税については、日本の税法では20.42%の源泉徴収が必要とされていますが、租税条約により税率が5%や10%に軽減されるケースがあります。

こちらも、相手先の国ごとに取扱いが異なりますので、それぞれの条約を調べる必要があります。

 

 

これらの租税条約の特例を適用するためには、租税条約届出書の提出など、一定の手続きが必要となります。

具体的なお話は次回以降にご説明します。

 

5.国内法と租税条約で、どちらが適用されるかを判断する

 

基本的には、租税条約が国内法に優先されますので、租税条約の規定を適用できる場合には、日本の税法に基づいた取扱い(源泉徴収の要否や、税率など)よりも減免されます。

たとえば、日本の税法よりも租税条約による税率が低い場合は、次のように取扱います。

 

ただし、まれに租税条約の方が課税が厳しくなることがあります。

国内法では源泉税が課されないのに、租税条約だと課税できる(源泉徴収できる)という場合もあります。

そのような場合には、国内法の減免措置を適用して良いことになっています。

これは、アジア諸国などで投資所得に対する課税が緩い国において、配当に関する源泉税について生じることがあるケースです。

 

また、租税条約では具体的な取扱いが判断できない場合もあります。

そんなときは、再度国内法(日本の所得税法)で詳細な取扱いを検討して最終的な判断を行います。

 

6.源泉徴収の手続きを行う

 

上述のように、租税条約の特例を受けられる場合には、租税条約届出書などの書類を作成する必要があります。

また、源泉徴収すべき税額がある場合には、支払日(源泉徴収した日)の翌月10日までに、「非居住者・外国法人の所得についての所得税徴収高計算書」(源泉税の納付書)を作成して源泉税を納付する必要があります。

さらに、一定の所得について源泉徴収と対象となる支払いをした場合には、支払調書を作成して、その支払日の翌年1月末日までに税務署長に提出します。

 

これらの手続きの具体的なお話は、次回以降にご説明する予定です。

(解説記事へのリンクは下部を参照下さい)

 

さいごに

源泉徴収すべきかどうかの判断をするのは難解ですし、源泉徴収に関する実務的な手続きも煩雑になります。

しかし、源泉徴収は海外への支払いをする会社に義務付けられており、もし源泉徴収を忘れると、ペナルティが掛かって後から多額の納税が必要になるケースもあります。

次回は、海外企業への支払いの際に源泉徴収をしなかったらどうなるかをご説明したいと思います。

【参考記事】【国際取引の税務〜支払編③〜】源泉徴収しないとどうなるか

 

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次回以降、海外企業への支払いに関するテーマで、ブログを更新していきます。

(更新予定)
海外企業に支払いをする際に気をつけること
源泉徴収の要否を判定する(基本的な流れ)
源泉徴収しないとどうなるか
源泉徴収の手続き(租税条約の届出、納付方法、法定調書など)
海外企業に仕入れ代金を支払う場合
海外企業にロイヤルティを支払う場合
海外企業にソフトウェア開発の委託費を支払う場合 など

 

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