【国際取引の税務〜支払編⑥〜】租税条約による特例を受けるための手続き

【国際取引の税務〜支払編⑥〜】租税条約による特例を受けるための手続き

海外の会社や個人に一定の支払いをする際は、原則的に、国内法に基づいて源泉徴収が必要となります。

しかし、もしその支払先の国との間に租税条約が締結されていれば、源泉税率の軽減や免除を受けることができます。

今回は、租税条約に基づいて源泉税の減免を受ける場合の手続きについて説明します。

【国際取引の税務〜支払編⑥〜】租税条約による特例を受けるための手続き

租税条約の適用

海外の会社や個人に支払いをする際には、源泉徴収が必要となるケースがあります。

源泉徴収が必要となる支払いとしてよくあるものは、次のような支払いです。

源泉徴収税率

 

租税条約の適用があるか調べる

ただし、前回までにご説明したように、支払先の国と日本との間で租税条約が結ばれている場合には、源泉税について免除されたり、税率が軽減されることがあります。

そのため、源泉徴収が必要な支払いであっても、租税条約の適用があるかどうかを検討する必要があります。

 

厳密に言えば、租税条約の適用を受けるかどうかは、その支払いを受ける相手先の任意ですので、支払う側が必ずしも検討しなければいけないことではありません。

海外からの支払いを受けるケースが多いグローバル企業であれば、支払い側から何も言わなくても、「租税条約に関する適用を受けたい」旨の申し出があると思います。

しかし、相手先の担当者が租税条約について詳しくない場合も当然あると思いますし、一旦原則通り国内法に基づいて源泉徴収してから、後で租税条約の適用をすると若干手続きが面倒になります。

 

従って、できるだけ支払いのタイミングで、支払い側から「租税条約の適用を受けるかどうか」を確認することも必要と思われます。

 

租税条約届出書を提出してもらう

租税条約によって源泉税の取扱いが減免される場合には、一定の手続きを行うことで、その適用を受けることが可能となります。

租税条約の適用を受けるために必要な手続きは、以下の通りです。

① 相手方から「租税条約に関する届出書」(租税条約届出書)を提出してもらう
    ↓
② 提出してもらった租税条約届出書を税務署に提出する
    ↓
③ 源泉税を差し引いて相手方に支払う
    ↓
④ 源泉税を税務署に納付する

 

これを簡単な図で説明すると、次のようなイメージになります

租税条約届出書の提出フロー

 

租税条約届出書とは?

租税条約届出書とは、名称からも分かる通り、租税条約の適用を受けるために税務署に提出する書類です。

租税条約により源泉税の減免を受けるのは、その支払いを受ける人なので、支払いを受ける人の名義で書類を提出することになります。

ただし、その支払いを受ける人は日本に拠点を持っていないため、その支払いをする者が代わりに税務署に提出することになっています。

書類のフォーマットは、支払いの種類ごとに用紙が異なっています。

 

例えば、配当を支払う場合のフォーマットは、次のようなものです。

租税条約届出書 

 

支払いの内容に応じてフォーマットが異なりますが、ここでは主なものをご紹介します。

様式1 配当
日本法人から配当の支払いをする場合

様式2 利子
日本法人から借入金の利子を支払う場合

様式3 使用料
日本法人から工業所有権又は著作権等の使用料を支払う場合

様式4~5 省略

様式6 人的役務提供事業の対価
専門サービスや技術サービスなどの提供を受けて対価を支払う場合など

様式7 自由職業者・芸能人・運動家・短期滞在者の報酬・給与

様式8 教授等・留学生・事業等の修習者・交付金等の受領者の報酬・交付金等

 

【国税庁HP】税務手続きの案内
源泉所得税(租税条約等)関係

 

提出時期は?

原則として、源泉徴収の対象となる所得について、最初に支払いを受ける日の前日までに、その支払いを受ける者が、その所得の支払いをする者を経由して、支払い者の納税地の所轄税務署長に提出することとなっています。

この場合、届出書は正副2通作成し、正本を税務署に提出して、副本は控えとして支払い者が保管します。

 

特典条項に関する付表とは?

支払相手の居住国がアメリカ・イギリス・フランスなどの場合には、『租税条約届出書』に加えて、『特典条項に関する付表』という書類が必要となるケースがあります。

租税条約の特典(源泉税の減免措置)は、一方の国・地域における課税を制限するものです。

この減免措置を不当に適用することを避けるために、租税条約の適用を受けることができる対象者に該当するかどうかを判定する目的で、一部の租税条約には「特典条項」という項目が設けられています。

平成29年3月現在は、アメリカ、イギリス、フランス、オーストラリア、オランダ、スイス、ニュージーランド、スウェーデン、ドイツとの間の租税条約に、この特典条項が設けられています。

 

具体的な提出書類

これらの国に係る租税条約の適用をする場合には、上述の租税条約届出書に加えて、次の書類を税務署に提出します。

『特典条項に関する付表(様式17)』

『居住者証明書』
(相手国の居住者であることを証明するもので、通常は相手国の税務当局が発行するもの)

 ※支払者が『居住者証明書』を確認して所定の記載をすることにより、添付を省略することも可能

 

 

【参考】特典条項に関する付表(米)

特典条項に関する付表 特典条項に関する付表

 

特典条項は、シンプルな判定で済む場合もあれば、その判断が非常に難しい場合も多々あります。

過去実際にあった事例として、相手がアメリカの会社だからと安易に租税条約を適用しようとしたところ、よくよく判定してみたら特典条項の適用を受けられなかったというケースもありました。

特に、グローバル企業の子会社や、株主が単独又は少数の場合、さらには法人を設立した国と営業している国が異なる場合などは、特典条項の判定が非常に困難になるケースがあります。

これらの国との間で租税条約の適用をする場合には、国際税務に詳しい税理士や弁護士などの専門家にご相談いただくことをお勧めします。

 

【国税庁HP】
[手続名]特典条項に関する付表(様式17)

 

租税条約届出書の提出を忘れてしまったら

租税条約届出書を提出しなかった場合としては、次のようなケースが想定されます。

・租税条約届出書を提出していないにもかかわらず、租税条約で認められている減免措置を適用してしまった場合

・本来は租税条約の減免措置を受けられたのに、租税条約届出書を提出せずに、原則通りの税率で源泉徴収してしまった場合

 

こちらについては、次回ご説明します。

【参考記事】租税条約届出書を提出しなかった場合

 

租税条約の適用を受けずに源泉徴収した後で、支払先から租税条約の適用を受けたいと言われたら

相手先から租税条約の適用を受けたい旨の申し出がなかったり、租税条約届出書の提出が間に合わなかったりして、一旦は原則通り国内法に基づいて源泉徴収したものの、後から租税条約の適用を受けることも可能です。

この場合は、支払いの相手先に還付請求書を作成してもらうことになりますが、一般的に、委任状やサイン証明などが必要となるため、若干手続きが面倒になります。

 

具体的な手続きの流れについては、こちらを参照下さい。

【参考記事】支払先から租税条約の適用を受けたいと言われたら

 

さいごに

租税条約届出書の手続きは、書き方や添付書類などが分かりにくく、慣れない方がひとりで作成するのは難しいかもしれません。

そもそも租税条約を適用できるかどうかの判定も、国際税務に詳しくない方にとっては非常に困難かと思います。

問題が生じる前に、できるだけ専門家にご相談いただくことをお勧め致します。

 

ご注意事項(必ずお読みください)

・本記事は記事執筆当時の制度・税制をもとに執筆されたものであり、現在の法令や実務とは異なる可能性があります。内容の正確性・最新性について保証するものではありません。

・恐れ入りますが、本記事の内容に関する個別のご質問やご相談にはお答えいたしかねます。あらかじめご了承ください。

・現在、当事務所では国際税務に関する単発(スポット)でのご相談は承っておりません。

・ただし、国際取引を含む中小企業の税務サポートについては、継続的な顧問契約の範囲でご対応できる場合がございます。詳しくはお問い合わせフォームよりご相談ください。
 

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