「棚卸し」は具体的に何をすればよいか?【会社決算のポイント⑧】
商品を仕入れたり、自社で製造して販売するような事業を行っている場合は、当期中に仕入れ・製造を行った商品・製品のうち期末時点で在庫として残っているものを「棚卸資産」として取り扱いますので、全てが当期の費用になるわけではありません。
また、原材料や消耗品、郵便切手や印紙などについても、期末に未使用のものがあれば、「貯蔵品」として翌期以降に繰り越す処理が必要な場合があります。
今回は、期末棚卸と在庫について基本的な事項をご説明します。
基本的に、会社の決算や税務申告については、ご自身で全てを行うのではなく、少なくとも税務申告については税理士にお任せいただくことが一般的です。
このシリーズでは、会社の決算や記帳についてはご自身で帳簿付けをされおり、決算や税務申告を税理士に依頼している方を対象としていますが、税理士に記帳まで全てお願いしている方であっても、決算にあたって税理士と相談する際に必要な知識となりますので、ぜひご一読ください。
個人事業者で青色申告をされている方も基本的には同様ですので、個人の方もぜひ参考にしてください。
【会社決算のポイント⑧】棚卸をして在庫を計上する
「仕入れ」と「売上原価」を基本から理解する
卸売業や小売業、製造業や飲食店など、外部からモノを仕入れてきて製造・販売するような商売においては、外部からの仕入れは当然ながら費用として計上することができます。
ただし、当期に仕入れた金額の全額が、当期の費用になるわけではありません。
次の図で示すように、売上原価として当期の費用になるものは、仕入れたもののうち、当期中に売れたものだけです。
毎期の仕入れ代金は、仕入先からの請求書や実際の支払いによって把握するのは容易ですが、当期に売れた分の金額を把握するために、売上の都度、対応する仕入れから売上原価になるものを計算するのは煩雑ですしとても大変です。
そこで通常は、期末の在庫を調べて「棚卸資産」を計算することで、差額として「売上原価」を計算するのが一般的です。
そして、期末の在庫を調べて「棚卸資産」を計算するために必要なのが、「棚卸」という行為になります。
棚卸とは?
「棚卸」とは、商品などの実際の数量を確認する作業のことを言います。
棚卸資産として帳簿に記載する金額は、次のような計算式で求めます。
そのため、ここで重要なのは「数量はどれくらいか」「単価はいくらか」ということです。
それぞれについて、以下簡単にご説明していきます。
実地棚卸により数量を確認する
在庫数量を確認する方法は、ひとつひとつ実際の在庫数量を数える「実地棚卸」が基本です。
すべての在庫を数えるのは時間が掛かりますし、大変な作業ではあるのですが、卸売業や小売業、製造業にとっては大変重要な手続きです。
よくスーパーや小売店などでも、2月末や3月末、9月末などの決算期末に、棚卸のため営業時間を短縮したり、臨時休業しているようなところを見たことがある方も多いかと思います。
このように、大手の会社であっても実地棚卸を重要な手続きとして実施しています。
具体的な手続き
(1) 保管場所の把握とナンバリング
まずは、在庫が保管されている場所を把握して、棚卸を行う区画を大まかに区切ってナンバリングします。
保管場所が複数ある場合や、一箇所であっても商品が分散して置いてある場合には、漏れがないようにする必要があります。
そこで、棚卸を行う場所に番号を振って、その番号に沿って順番に棚卸しを行うと良いでしょう。
(2) 棚卸表の作成
つぎに、商品の分類や種類ごとに一覧表を作成します。
これを一般的に「棚卸表」と言います。
もし在庫が多い場合は、それぞれの在庫自体にも貼っておくための「在庫ラベル」を作成しても良いかもしれません。
在庫ラベルを貼っておくことで、二重に数えてしまうことを防ぐこともできます。
(3) 帳簿との一致の確認
在庫ラベルを集計して、棚卸表に記入したら、受払帳などの帳簿上の数字と一致するかどうかを確認します。
帳簿との一致しないようであれば、基本的には棚卸の結果である実際の在庫数が正しいはずですが、念のため原因を検討します。
自社倉庫以外の在庫や仕掛品も忘れずに
実地棚卸だけでは、集計が漏れてしまうものがあります。
そのひとつが、輸送中の商品です。
その他にも、次のような在庫は自社倉庫にはありませんので、これらも集計から漏れないように注意します。
「輸送中の商品」
「外部倉庫に置いてある商品」
「仕入先や配送業者の倉庫に置いてある商品」
「委託販売により預けている商品」(Amazon FBAの在庫も対象と考えられます)
また、製造途中の「仕掛品」や、「半製品」「副産物」なども棚卸資産として評価対象になります。
仕損品であっても販売できるようなものは、適切に在庫計上しなければなりません。
例えばホームページ制作会社や広告制作会社などで、期末時点において未完成の納品物がある場合は、それまでに要した外注費や制作費などを「仕掛品」として費用から振り替え、実際に納品・請求が完了してから売上原価等に計上する処理が必要であると考えられます。
この部分の処理は難しいかもしれませんので、顧問税理士と相談しながら処理を進めて頂いた方が良いかと思います。
評価金額を決める
仕入れた商品であれば「仕入費用」、製造した製品であれば「製造原価」になりますが、実は棚卸資産の評価方法には、複数の方法があります。
一般的には「最終仕入原価法」という方法を用いることが多いと思います。
仕入れた商品の場合、その仕入れのタイミングや仕入先などによって、商品の単価が異なります。
そのため、どの時点での仕入単価を使えば良いのか迷ってしまいます。
「最終仕入原価法」は、読んで字のごとく、最後に仕入れた時の単価を用いて、在庫の計上金額(棚卸資産の金額)を計算する方法です。
この他にも、「個別法」や「先入先出法」「総平均法」「移動平均法」などがあり、青色申告法人であれば「低価法」を採用することもできます。
顧問税理士と相談して、自社に合った評価方法を使用してください。
なお当然ですが、ここで言う「評価金額」は、個々の商品ごとに設定する必要があります。
商品や製品の種類が多い会社は、在庫管理ソフトなどを利用するのが便利です。
在庫金額を計算する
実地棚卸により確認した在庫の数量に、上記の評価金額を掛けて、期末の在庫金額を計算します。
商品ごとに算出したこの在庫金額を、会計ソフトなどに決算整理として「棚卸資産」に計上(振り替え)します。
これによって、ようやく売上原価を算出することができます。
消耗品でも在庫計上が必要なものがある
消耗品として費用計上できるもの
商品や製品については、期末に大量に仕入れたとしても、実際に売れるまでは棚卸資産として資産計上しなければなりません。
ただし、文房具や作業用具、包装材料などの消耗品については、一般的に金額が少額であるため、次の要件を満たす場合には、その購入時に費用に入れることが認められています。
・毎年おおむね一定数量を購入するようなもの
・毎年経常的に消費するものであること
・継続して同様の処理方法を適用していること
ただし、高額なもので事業を行う上でも重要なものや、次に挙げるようなものについては、「貯蔵品」などとして棚卸資産に計上しなければならないものもありますので、注意が必要です。
貯蔵品として資産計上すべきもの
次のようなものは、上記の消耗品には含まれませんので、期末に未使用分があれば貯蔵品として計上する必要があります。
・収入印紙
・郵便切手
・前売りチケットや回数券
・プリペイドカード
若干話がそれますが、最近ではSuica(スイカ)などのICカードにチャージして交通費や少額の買い物の精算をしている会社が多いと思いますが、原則的にはこのチャージ金額については入金時に「前払金」などの資産に計上し、実際に使用した際にそれぞれの費用に計上する必要があります。
なお、もしSuicaなどのICカードを交通費にしか使わないのであれば、継続処理を前提として、チャージの時点で交通費として処理することも認められるのではないかと考えます。
さいごに
棚卸は地味な作業にも見えますが、とても大切な決算作業のひとつです。
厳密にやり過ぎると時間ばかり掛かって業務に支障が出てしまいますが、在庫の見落としによって利益が大幅に変わってしまうこともありますので、間違いのないよう効率的に行いたいものです。
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- 決算や申告がはじめての法人のお客様へ
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このシリーズでは、簿記や経理をある程度理解している方を前提として、決算整理の際に注意すべき点をご説明していきます。
基本的には、帳簿だけをご自身で作成して、決算書や税務申告書の作成を税理士(会計事務所)に依頼しているような方を対象としてご説明します。
「どうせ赤字だから、決算や申告が少しくらい間違っていても大丈夫だろう」
「うちは規模が小さいから、税理士や会計事務所に頼むまでもない」
「会計ソフトを使えば自分でも作れそうだから、わざわざ高い報酬を払ってまで税理士に依頼するのがばかばかしい」・・・実際にこういったお話をお聞きすることも多いです。
しかし、間違いが多い決算申告では銀行にも税務署にも信用されませんし、経営判断や節税対策には全く使えません。
また、個人事業の確定申告と比べると、法人の決算や申告は格段に難易度が高くなりますので、ご自身で正しい決算申告をすることは非常に難しいと思います。私どもの事務所では、お客様の方で会計ソフトへの入力が済んでおり、決算や税務申告だけを頼みたいというご依頼もお引き受けしております。
もちろん、会計ソフトへの入力まで丸投げしたいというお客様や、日々の節税相談をご希望のお客様、更には過去数年分の申告をまとめて依頼したいという法人の方も、ぜひ一度ご相談ください。