開業費用はどこまで経費にできるのか?【法人の決算に向けて⑥】

前回に引き続き、法人設立後まもない会社において、会社を設立してからビジネスを開始する前(開業前)に掛かった費用についてのお話です。

法人設立前や、設立してから開業するまでに掛かった費用についても、もちろん会社の経費に入れることができます。

今回は、創立費や開業費を経費に入れるタイミングについてもう少し詳しくご紹介したいと思います。

基本的に、会社の決算や税務申告については、ご自身で全てを行うのではなく、少なくとも税務申告については税理士にお任せいただくことが一般的です。

このシリーズでは、会社の決算や記帳についてはご自身で帳簿付けをされおり、決算や税務申告を税理士に依頼している方を対象としていますが、税理士に記帳まで全てお願いしている方であっても、決算にあたって税理士と相談する際に必要な知識となりますので、ぜひご一読ください。

個人事業者で青色申告をされている方も基本的には同様ですので、個人の方もぜひ参考にしてください。

【法人の決算に向けて⑥】開業費を経費に算入する

「創立費」と「開業費」

会社を設立し、実際に事業を始めるまでには、様々な支出を行います。

会社を設立する”前”に支払うようなものもありますが、会社設立前に支払ったものでも、それが事業に関連するものであれば、会社の経費として計上することができます。

事業を始めるまでに支払うような経費としては、大きく分けて次の2種類があります。

創立費・・・会社を法律的に作るまでにかかる費用

開業費・・・営業を開始するまでにかかる費用

上記の中には、会社に資本金を払い込んで設立するより”前”に支払いが発生するようなものもあるかと思います。

会社としてはお金がありませんので、一旦は代表者などが個人で立て替えておいて、会社設立後に会社からその立替金を返してもらうようにすれば問題ありません。

開業費を経費に入れる

「創立費」「開業費」は、名称に”費”とついているので費用のように見えますが、決算書上の区分は「繰延資産」という資産になります。

「繰延資産」とは、会社が支出する費用のうち、その支出の効果が1年以上にわたって及ぶようなものを言い、その効果が及ぶ期間に按分して費用化することになります。

資産ですので、これらの費目で処理しただけでは経費になりません。

一旦は資産として処理した上で、経費にするための処理(償却)が必要となります。

【原則的な償却費の計算方法】

「創立費」や「開業費」は、その会社を続けていくために必ず必要となる費用ですから、理論上はその会社が存続している期間にわたって効果が及ぶとも考えられます。

ただし、会社がどれくらい存続するか明確ではありませんし、あまりにも長期間費用化できないことは現実的ではありませんので、「創立費」や「開業費」に限っては、償却(費用化)について特別な方法が認められています。

具体的には、次のとおりです。

①原則として5年間で均等に償却する

②任意償却

「②任意償却」とは、いつでも自由に償却できるということです。

つまり、初年度に全額を償却しても良いですし、設立後何年か経って業績が黒字化してから償却することも認められます。

実際のところは、どのタイミングで費用化しても税金が大きく変わることはないかもしれませんが、損益の状況や将来予測、融資の状況やキャッシュフローなどを見極めながら、費用化のタイミングを検討することになります。

どのタイミングで費用化すべきか

設立初年度から利益が出ている場合

上記でご説明したように、創立費や開業費は、その設立初年度に全額を償却(費用化)することも認められています。

そのため、もし設立初年度から利益が出るようであれば、キャッシュフロー(手元現金)を考慮すれば、その初年度に全額を費用化して税金を抑えた方が有利です。

ただし、設立初年度の利益の額が、創立費や開業費の金額よりも少ないようであれば、初年度は税金(法人税等)が生じない金額まで償却費を計上し、残りは2年目以降に償却することになります。

なお、毎年同じくらいの利益が出ることが見込まれるのであれば、償却する金額も毎期均等にしても問題ありません。

ご自身で中長期計画をお持ちであれば、何年で初期投資を回収したいかを考慮した上で計画的に費用化することでもよいかと思います。

設立初年度が赤字の場合

設立初年度が赤字になるようであれば、翌年以降に黒字になってから償却することを検討しても良いかと思います。

例えば、2年目から黒字になるようであれば、その黒字になったタイミングで全額を償却するか、または2年目以降の5年間で均等に償却するということでも結構ですし、2年目と3年目に分けて償却することも可能です。

なお、赤字になってしまった設立初年度に償却したとしても、必ずしも不利になるわけではありません。

次に説明するように、青色申告をしている会社の場合は、赤字を翌年以降に繰り越すことで、翌年以降の黒字と相殺することができます。

つまり、開業費や創立費として繰り越すのではなく、欠損金という形に変えて繰り越すことになります。

繰越欠損金との関係を理解する

青色申告の承認を受けている会社の場合は、もし赤字になったとしても、その赤字を翌年以降に繰り越して、翌年以降の黒字と相殺(控除)することができます。

これを「青色欠損金の繰越控除」と言います。

「欠損金」とは、法人税を計算する上での赤字のことです。

この「欠損金」は、その生じた事業年度から9年間(*1)、繰り越すことができます。

(*1)平成20年3月31日以前に終了した事業年度において生じた欠損金額については7年以内、平成30年4月1日以後に開始する事業年度において生じた欠損金額については10年以内

そのため、たとえ赤字の年に開業費を全額償却したとしても、その後9年間の間に黒字の年があれば、その黒字と相殺することで、トータルでは税金の額は変わりません(年によって法人税率などが変わる場合があるので、税率の差異によるメリット・デメリットは想定されます)。

なお、中小法人等(資本金の額が1億円以下などの条件を満たす法人)や、設立してから7年以内の法人については、黒字になった年に欠損金の全額を控除することができますが、それ以外の法人は、毎年一定の金額までしか欠損金を控除できませんので、注意が必要です。

さいごに

創立費や開業費の償却タイミングによって、トータルで見れば支払う税金の大きな違いはないかもしれませんが、法人税率の改正による税額の違いや、キャッシュフローへの影響があるので、早めに費用化した方が良いケースもあります。

さらに最悪のケースを考えると、初年度だけ黒字で、翌年以降は赤字が連続したまま倒産してしまうと、結局開業費を費用にするタイミングを失い、初年度に多く税金を払いすぎるようなこともあるかもしれません。

そのため、できるだけ早いタイミングで費用化することを検討しても良いかと思います。

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【法人税の申告調整④】貸倒損失
【法人税の申告調整⑤】税金の調整(費用になるもの、ならないもの)

決算や申告がはじめての法人のお客様へ

このシリーズでは、簿記や経理をある程度理解している方を前提として、決算整理の際に注意すべき点をご説明していきます。

基本的には、帳簿だけをご自身で作成して、決算書や税務申告書の作成を税理士(会計事務所)に依頼しているような方を対象としてご説明します。

「どうせ赤字だから、決算や申告が少しくらい間違っていても大丈夫だろう」
「うちは規模が小さいから、税理士や会計事務所に頼むまでもない」
「会計ソフトを使えば自分でも作れそうだから、わざわざ高い報酬を払ってまで税理士に依頼するのがばかばかしい」

・・・実際にこういったお話をお聞きすることも多いです。

しかし、間違いが多い決算申告では銀行にも税務署にも信用されませんし、経営判断や節税対策には全く使えません。
また、個人事業の確定申告と比べると、法人の決算や申告は格段に難易度が高くなりますので、ご自身で正しい決算申告をすることは非常に難しいと思います。

私どもの事務所では、お客様の方で会計ソフトへの入力が済んでおり、決算や税務申告だけを頼みたいというご依頼もお引き受けしております。

もちろん、会計ソフトへの入力まで丸投げしたいというお客様や、日々の節税相談をご希望のお客様、更には過去数年分の申告をまとめて依頼したいという法人の方も、ぜひ一度ご相談ください。

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