領収書がなくても費用計上できるか?【法人の決算に向けて①】

領収書をもらい忘れたり、うっかり無くしてしまったことはないでしょうか?

会社が事業に必要となる支払いを行った場合には、領収書をもらって、帳簿に記載する必要があります。

今回は、領収書をなくした場合の対処法や、領収書とレシートの違いなど、帳簿を付ける上で欠かせない領収書に関するお話です。

基本的に、会社の決算や税務申告については、ご自身で全てを行うのではなく、少なくとも税務申告については税理士にお任せいただくことが一般的です。

このシリーズでは、会社の決算や記帳についてはご自身で帳簿付けをされおり、決算や税務申告を税理士に依頼している方を対象としていますが、税理士に記帳まで全てお願いしている方であっても、決算にあたって税理士と相談する際に必要な知識となりますので、ぜひご一読ください。

個人事業者で青色申告をされている方も基本的には同様ですので、個人の方もぜひ参考にしてください。

【法人の決算に向けて①】領収書がない費用を計上しなかった場合

支払いを記帳しなかったらどうなるか

領収書は、実際に支払いをしたという事実を証明するための証拠書類です。

会社が、事業のために支払った金額を経費として計上するためには、領収書を保存しておかなければなりません。

法人税では、取引に関して相手方から受け取った領収書などの書類は、一定期間保管しなければなりません

領収書をもらっていなかったり、紛失してしまったために、その支払いを帳簿に記載しないようなケースがたまに見受けられます。

実際に支払いを行ったのに、帳簿に記載しなかったら、どうなるでしょうか?

会社のお金を支払ったものであれば、その支払いを記帳しなければ、使い途が分からない支出となってしまいます。

会計上は雑損失などとして計上するかもしれませんが、その支出の内容を証明したり、説明できない場合には注意が必要です。

税務上は、交際費や接待費、機密費等の名目で費用として支出したもののうち、その使途が明らかにされていないものを「費途不明金」と言い、法人税を計算する上での費用(税法用語で「損金」と言います)にならない可能性もあります。

法人税を計算する上での費用(「損金」)にならないということは、その分だけ税金を多く支払うということになります。

法人税や住民税を合わせた税率を仮に30%とすれば、10,000円の領収書を入れ忘れるだけで、3,000円のお金を損していることになります。

大したことがないと思われるかもしれませんが、高めのランチ1回分ですし、積み重なると無視できない金額になってしまいますので、間違いなく全ての支出を計上しなければなりません。

領収書をなくしたらどうするか?

領収書やレシートは絶対に無くさないことが必要ですが、万が一無くしてしまったときはどうしたら良いでしょうか?

そのような場合には、まずは買ったお店に再発行を依頼してみてください。

再発行は受け付けていないお店もありますが、中には再発行に応じてくれるお店もあります。

なお再発行された領収書には、「再発行」というスタンプや印字がされるケースが多いので、元々の領収書が出てきても、そちらは破棄する必要があります。

もし再発行をしてもらえなかったら、出金伝票で対応するという方法もあります。

ただし、出金伝票だけだと本当に購入・支出したことの証拠能力に乏しいので、できるだけ支払いを裏付けられるような資料を別途用意しておいたほうが良いと思います。

領収書をなくさないためにも

領収書や事業関連の書類を保管するファイルやボックスを用意しておいて、領収書をもらったらすぐに、そのファイルやボックスに入れて保管するようにしましょう。

月ごとに大きめの封筒を用意して、そこに入れておくのでも良いと思います。

またファイルや封筒に入れたら終わりではなく、最低でも1ヶ月に1回は書類を整理して、できるだけ早めに会計ソフトへの入力をすることをお勧めします。

レシートでも良いか?

そもそも領収書は何のためにもらうのか

領収書とは本来、お買い物をしたりサービスを受けた時に、支払を受けたことを売手が証明するものです。

買手にとっては、例えば購入後に返品や交換をする場合、そのお店で確かに購入したことを認めてもらうために領収書を提示します。

また、お金だけ先に支払っておいて、後から商品を受け取る場合にも、「払った」「払っていない」という無用のトラブルを避けるという目的があります。

つまり、領収書とは、支払いに関するトラブルを避けるために、”その支払いの事実を証明するために売手が発行する書類”ということになります。

保存すべき「領収書」とは?

何か買い物をしたり、飲食店などで支払いをする際に、わざわざ領収書をもらう方は多いと思います。

そもそも、会社が保存すべき証拠書類として、いわゆる「レシート」ではダメで、必ず「領収書」を保管していなければいけないのでしょうか?

実のところ、税法においては、経費を計上するために領収書が必要であるということは明確に書かれていません。

また、領収書とレシートの違いについても特に触れられていません。

ただし、全く根拠書類がないと、誰もが勝手に経費を架空計上したり、金額を水増ししたりできてしまうため、「実際に支払ったこと」「事業に使われたこと」などを証明できるような根拠書類が必要ということになります。

領収書とは本来、お買い物をしたりサービスを受けた時に、支払を受けたことを売手が証明するもので、通常は支払いをすれば必ず発行してもらえます。

そこで法人税においては、「支払いの事実」を証明する書類として通常入手するはずの領収書を、経費として認めてもらうための証拠書類として使っているということになります。

そして、取引に関して相手方から受け取った領収書などの書類は、一定期間保管しなければなりません

なお、「間違いなく支払いが行われたこと」「事業に使われたこと」などが分かるような書類であれば、名称は「領収書」ではなくても問題ありません。

別の法律にはなりますが、印紙税法という法律では、「お買上げ票」などでも、それが金銭を受領した事実を証明するものであるときは、これも領収書と同等の書類であるとしています。

従って、「領収書」でも「レシート」でも、はたまた「お買上げ票」などの「金銭を受領したことを証明するための書類」であれば、その名称は関係ないことになります。

「領収書」と「レシート」のどちらが正式な書類か

領収書もレシートも価値は同じです。

よく、手書きの「領収書」の方が正式なものと考えている方もいらっしゃるかと思いますが、特に優劣はありません。

ただし、記載事項が極端に少ないレシートは別です。

以前は、レジから出るレシートには、金額しか記載されていないレシートをもらうことも多かったと思います。

レジによっては、日付も記載されていないケースもあったりします。

昔から営業している個人商店や飲食店などでは、今もこのようなレジを使用されている所があるかと思います。

このようなレシートでは、どのお店で、いつ、どんな商品・サービスにお金を支払ったのか証明することができません。

従って、会社の経費にするために、わざわざ手書きの領収書をもらう習慣が生まれたのだと思います。

記載事項については、その使用する目的が個人の確定申告用なのか、会社が法人税を申告するためなのか、または会社員の方が経費精算するためなのか、といった用途によって異なりますが、主に次のような事項が記載されている書類であればよいかと思います。

領収書もレシートも無い経費はどうしたらよいか

領収書をもらい忘れたのではなく、そもそも領収書もレシートももらえないような支出もあるかと思います。

具体的には次のような支出ですが、そんなときは、以下のような方法で支払いを記録しておけば大丈夫です。

ご祝儀やお香典

出金伝票やブロックメモ、現金出納帳などに支払った記録をします。

証拠として結婚式の招待状や、お礼状や香典返しなどを保管しておいて、金額をメモしておくと良いと思います。

公共交通機関

出金伝票やメモに「行き先」と「目的」「金額」などを記録するか、エクセルの明細を作成します。

交通費はスイカなどの交通系電子マネーに一元化するルールにして、利用記録を定期的に入手する方法もおすすめです。

ただスイカなどを利用する場合には、コンビニなどでも購入できてしまうので、利用記録とレシートをまとめて保管しておいて、買い物についてもきちんと説明できるようにしておくことが必要です。

取引先と飲食して割り勘で払った場合

居酒屋などでは、領収書を分けて発行してくれる所もあります。

できれば領収書を発行してもらって下さい。

もし大人数の場合などで難しい場合には、出金伝票やメモに、「いつ」「誰と」「どこで」「いくら」払ったかといった情報を記載しておくようにしましょう。

事務所家賃

毎月定額の家賃が口座振替などで自動引き落としされる場合、領収書は発行されないことがほとんどです。

そんな場合には、請求書や契約書などの金額が分かる書類を保管するとともに、引き落とし口座の通帳コピーなどにメモ書きをしておきます。

消費税の納税義務がある場合でも、帳簿に「口座振替のため」などと記載した上で、支払先の住所等を記載すれば良いとされています。

その場合には帳簿の摘要欄に「支払先の名称」や、「○○月家賃」といった事項を入力しておく必要があります。

(参考)国税庁HP – 質疑応答事例

課税仕入れに係る支払対価の額の合計額が3万円以上である場合において、請求書等の交付を受けなかったことにつきやむを得ない理由がある場合には、帳簿に法定事項に加えて当該やむを得ない理由及び当該課税仕入れの相手方の住所又は所在地を記載することを条件に、仕入税額控除を認めることとされています(法307、令491二)が、照会のような場合には、消費税法基本通達11-6-3(5)《請求書等の交付を受けられなかったことにつきやむを得ない理由があるときの範囲》の「その他、これらに準ずる理由により請求書等の交付を受けられなかった場合」に該当しますので、照会のとおり取り扱って差し支えないものとします。 なお、この場合、帳簿には、やむを得ない理由として「口座振替のため」等と記載することで差し支えありません。

(出典)http://www.nta.go.jp/shiraberu/zeiho-kaishaku/shitsugi/shohi/18/07.htm

消費税の申告をする場合は、記載事項に注意

消費税の納税義務がある会社の場合は、法人税よりも要件が厳しくなっているので、注意が必要です(原則課税の場合)。

消費税の申告において経費を認めてもらうためには、次の5項目が記載された書類を保管していなければなりません。

①「書類の作成者の氏名又は名称」

②「年月日」

③「買ったものの内容やサービスの内容」

④「支払った金額」

⑤「支払った人の氏名又は名称」

①~④はレシートに記載されていることも多いですが、⑤の支払った人(レシートを受け取る人)の氏名や名称は、レシートには記載されていないことが多いです。

また、3万円未満である場合や、自販機で買った場合や公共交通機関の乗車券など、領収書等を受け取れないようなやむを得ない事情がある場合には、領収書等を保存しなくても構わないことになっています(ただしその場合でも、帳簿に一定の事項を記載する必要があります)。

消費税の納税義務がない会社については、厳密に言えばこの記載事項すべてが記載していないと認められないかというと、そういうわけではありません。

ただ、情報量は多ければ多いほど証拠となりますので、ひとつの目安として考えても良いかと思います。

さいごに

小さな会社の場合は特に、領収書がなくて支出の内容が分からないような支払いが多くあります。

また、領収書をもらえなかったからと言って、自分のポケットマネーから出してしまうという経営者の方も中にはいらっしゃるかもしれません。

会社が経費を計上する上で領収書は必須ですが、上記のように領収書がなくても経費計上できる場合もあります。

会社で必要な経費を支払った場合には、漏れなく全てをメモしておくことも大切です。

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【はじめての決算】
①そもそも「決算」とは?
②決算整理とは?
③税務申告で作成する書類は?
④申告しないとどうなるか?

<その他、会社決算に関する記事>

【会社決算のポイント】
【会社決算のポイント①】発生主義とは?
【会社決算のポイント②】未払費用を計上する
【会社決算のポイント③】短期前払費用を経費に入れる
【会社決算のポイント④】残高を合わせる
【会社決算のポイント⑤】減価償却費を計算する
【会社決算のポイント⑥】少額減価償却資産の処理方法
【会社決算のポイント⑦】固定資産か修繕費か
【会社決算のポイント⑧】棚卸しをして在庫を計上する
【会社決算のポイント⑨】消費税や法人税の期末処理
【会社決算のポイント⑩】その他の決算処理

【法人の決算に向けて】
【法人の決算に向けて①】領収書がない費用を計上しなかった場合
【法人の決算に向けて②】役員に対する貸付金がある場合
【法人の決算に向けて③】自宅を法人の事務所として使用している場合
【法人の決算に向けて④】個人事業で使っていた資産を引き継ぐ
【法人の決算に向けて⑤】法人設立前の費用を忘れずに計上する
【法人の決算に向けて⑥】開業費を経費に算入する
【法人の決算に向けて⑦】法人設立前の売上については、個人で確定申告が必要

【法人税の申告調整】
【法人税の申告調整①】役員報酬を期中に減額した
【法人税の申告調整②】期末に役員賞与や親族への賞与を未払計上した
【法人税の申告調整③】交際費の計算(区分)
【法人税の申告調整④】貸倒損失
【法人税の申告調整⑤】税金の調整(費用になるもの、ならないもの)

決算や申告がはじめての法人のお客様へ

このシリーズでは、簿記や経理をある程度理解している方を前提として、決算整理の際に注意すべき点をご説明していきます。

基本的には、帳簿だけをご自身で作成して、決算書や税務申告書の作成を税理士(会計事務所)に依頼しているような方を対象としてご説明します。

「どうせ赤字だから、決算や申告が少しくらい間違っていても大丈夫だろう」
「うちは規模が小さいから、税理士や会計事務所に頼むまでもない」
「会計ソフトを使えば自分でも作れそうだから、わざわざ高い報酬を払ってまで税理士に依頼するのがばかばかしい」

・・・実際にこういったお話をお聞きすることも多いです。

しかし、間違いが多い決算申告では銀行にも税務署にも信用されませんし、経営判断や節税対策には全く使えません。
また、個人事業の確定申告と比べると、法人の決算や申告は格段に難易度が高くなりますので、ご自身で正しい決算申告をすることは非常に難しいと思います。

私どもの事務所では、お客様の方で会計ソフトへの入力が済んでおり、決算や税務申告だけを頼みたいというご依頼もお引き受けしております。

もちろん、会計ソフトへの入力まで丸投げしたいというお客様や、日々の節税相談をご希望のお客様、更には過去数年分の申告をまとめて依頼したいという法人の方も、ぜひ一度ご相談ください。

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