役員に対する貸付金があると融資が不利になるって本当?【法人の決算に向けて②】
中小企業の場合、社長や役員に対して金銭の貸付けをしたり、逆に社長からお金を借り入れることがあるかと思います。
その場合、利息の支払いは必要なのか、また、契約書などを作る必要はあるのか、など検討しなければならない事項があります。
また、役員貸付金があると、融資を受ける際に審査が不利になる可能性も考えられます。
今回は、会社と役員との間で金銭の貸し借りがある場合に、税理士と相談すべき事項について簡単にまとめてみました。
基本的に、会社の決算や税務申告については、ご自身で全てを行うのではなく、少なくとも税務申告については税理士にお任せいただくことが一般的です。
このシリーズでは、会社の決算や記帳についてはご自身で帳簿付けをされおり、決算や税務申告を税理士に依頼している方を対象としていますが、税理士に記帳まで全てお願いしている方であっても、決算にあたって税理士と相談する際に必要な知識となりますので、ぜひご一読ください。
個人事業者で青色申告をされている方も基本的には同様ですので、個人の方もぜひ参考にしてください。
【法人の決算に向けて②】役員に対する貸付金がある場合
社長や役員に貸付をした場合の注意点
経営者や役員が、会社のお金を割と自由に使ってしまうようなことは、中小企業では割と多く見られる事例です。
また、役員がプライベートの支出で多額の現金が必要な場合に、特に何の契約書も作成せずに、口約束で会社のお金を引き出してしまうようなケースも見受けられます。
このような場合に、注意しなければならないのは次のような点です。
・利息
・契約書
・銀行借入
・相続税への影響
それぞれについて、簡単にご説明していきます。
利息を取っていない場合
会社が行う事業は、基本的にすべて営利活動であることが前提となっています。
営利活動とは、何らかの利益を追求する行為を行うことです。
会社が行っているのは慈善事業ではありませんので、役員に対する貸付を行っている場合にも、原則としては利息を適正に受け取る必要があります。
役員に対する貸付金がある場合、その利息が適正額かどうかを検討しなければなりません。
ただ、実際は利息を徴収していないケースが割と多いかと思います。
もし利息を徴収していないようであれば、原則的にはその利息相当額について、税務上はその貸付をした役員に対する給与(経済的利益)として取り扱われることになります。
ただし、所得税法や法人税法に於いては、次のような規定もありますので、これらを総合的に判断した上で、実際の処理を検討する必要があります。
所得税の取扱い
所得税法においては、原則として、通常取得すべき利率により計算した利息の額と、実際収受した利息の額との差額に相当する金額は、その役員に対する経済的利益として、役員に対する給与として課税するものとされています。
ただし、次に掲げるような場合には、課税しなくても差し支えないものとされています(所得税法基本通達36-28)。
(2) 役員に貸し付けた金額につき会社の借入金の平均調達金利など合理的と認められる貸付利率を定め、これにより利息を徴収している場合に生じる経済的利益
(3) 上記以外の貸付金について受ける経済的利益で、事業年度中に受ける経済的利益の合計額が5,000円以下のもの
法人税の取扱い
一方で法人税法においても、基本的には所得税と同様の取扱いとなりますので、原則的には、その徴収すべき利息の額について役員給与として取り扱われます。
ただし、所得税において上記(1)~(3)に該当して課税されないような場合に、敢えてその給与として処理しないようであれば、法人税においてもその役員に対する給与として取り扱わないという規定もあります(法人税法基本通達9-2-10)。
なお、役員給与とされた場合においても、その利息の額が毎月著しく変動するものを除き、継続的に供与される経済的な利益で供与される利益の額が毎月おおむね一定であるものと認められる場合には、法人税法上は定期同額給与として取り扱われる余地があります(法人税法基本通達9-2-9、同9-2-11)。
上記のように、利息については所得税・法人税に規定されている内容を踏まえた上で、「利息を取るべきか」「利息を取るとすれば、利率はいくらにするか」を検討することになります。
契約書の作成
貸し付けたまま全く返済がされていなかったり、全く利息を取っていないようなケースでは、税務調査において、単に貸付金という体裁を取っているだけなのではないか?と疑われることになってしまいます。
特に、貸付の内容が社長や役員のプライベートな支出を肩代わりしたものである場合、実際は役員賞与や使途秘匿金であるものと認定されてしまう可能性も考えられます。
そこで、役員に対してお金を貸し付ける場合には、株主総会において承認を受けた上で、きちんと金銭消費貸借契約書(借用書)を作成して、返済期間や利息などを記載し、確実に返済を行うようにしなければなりません。
銀行から借入をする場合
また、銀行などの金融機関から借入をしている会社や、これから融資を受けようと考えている会社は、注意が必要です。
会社の決算書(貸借対照表)に役員に対する貸付金が載っていた場合、銀行からすれば、融資をしたお金が社長や役員の個人的な用途に使われるのではないか?という懸念を抱きます。
銀行としては、会社がその事業で儲けをあげることで、融資をしたお金を回収して利息を受け取ることになりますので、そのお金が役員のプライベートな用途に使われる恐れがあれば、融資が下りないことも想定されます。
さらに、役員貸付金が貸借対照表に計上されている場合、その会社の財務状況がこの貸付金を除いて判断されることもあります。
役員給与だけではとても返済できないような多額の貸付金である場合など、現実的には貸付金の回収が難しいものとみなされてしまい、融資の判断が厳しくなることも十分に考えられます。
役員に対する貸付をしている場合は、できるだけ早急に回収するように検討すべきと思われます。
役員からお金を借りている場合
ここまでご説明してきたこととは反対に、会社の資金繰りが厳しいため、社長や役員が個人的に会社にお金を貸し付けることもあるかと思います。
この場合も、借用書(金銭消費貸借契約書)などを作成して、返済期間や返済方法などを明確にしておく必要はあるかと思いますが、利息を取らなかったとしても、特に税務上問題になることはありません。
これは、会社は営利目的で事業を行っているのとは異なり、個人は必ずしも営利を目的とした行動のみを行うわけではないからと言えます。
ただし、いくつか注意しなければならない点がありますので、ここでは列挙するのみにとどめておきます。
詳細については、顧問税理士とご相談ください。
・利息が適正かどうか(役員給与)
・貸し付けた役員の個人所得税の課税
・返済できずに債務免除してもらった場合の取扱い
・DES(借入金の資本金への振り替え)の検討
・相続財産としての貸付金
さいごに
同族会社などのオーナー企業や、中小企業の場合には、会社と個人のお金が混同してしまいがちです。
会社と役員との間で、安易にお金のやり取りをしてしまうケースも見受けられますが、上記のように注意しなければならない点がありますので、自分だけで判断せず、顧問税理士にご相談いただくのが良いかと思います。
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このシリーズでは、簿記や経理をある程度理解している方を前提として、決算整理の際に注意すべき点をご説明していきます。
基本的には、帳簿だけをご自身で作成して、決算書や税務申告書の作成を税理士(会計事務所)に依頼しているような方を対象としてご説明します。
「どうせ赤字だから、決算や申告が少しくらい間違っていても大丈夫だろう」
「うちは規模が小さいから、税理士や会計事務所に頼むまでもない」
「会計ソフトを使えば自分でも作れそうだから、わざわざ高い報酬を払ってまで税理士に依頼するのがばかばかしい」・・・実際にこういったお話をお聞きすることも多いです。
しかし、間違いが多い決算申告では銀行にも税務署にも信用されませんし、経営判断や節税対策には全く使えません。
また、個人事業の確定申告と比べると、法人の決算や申告は格段に難易度が高くなりますので、ご自身で正しい決算申告をすることは非常に難しいと思います。私どもの事務所では、お客様の方で会計ソフトへの入力が済んでおり、決算や税務申告だけを頼みたいというご依頼もお引き受けしております。
もちろん、会計ソフトへの入力まで丸投げしたいというお客様や、日々の節税相談をご希望のお客様、更には過去数年分の申告をまとめて依頼したいという法人の方も、ぜひ一度ご相談ください。