自宅を会社の事務所として家賃を払うことは可能?【法人の決算に向けて③】
個人事業から法人成りした会社や、スタートアップの企業などは、最初は代表者の自宅を会社オフィスとして使用するケースがあるかもしれません。
この場合、オフィスの賃料を経費に入れるかどうか悩んでしまうところですが、安易に経費にしないほうが良い場合も多いと思います。
今回は、自宅を会社の事務所として使用している場合に注意すべき点を考えてみます。
基本的に、会社の決算や税務申告については、ご自身で全てを行うのではなく、少なくとも税務申告については税理士にお任せいただくことが一般的です。
このシリーズでは、会社の決算や記帳についてはご自身で帳簿付けをされおり、決算や税務申告を税理士に依頼している方を対象としていますが、税理士に記帳まで全てお願いしている方であっても、決算にあたって税理士と相談する際に必要な知識となりますので、ぜひご一読ください。
個人事業者で青色申告をされている方も基本的には同様ですので、個人の方もぜひ参考にしてください。
【法人の決算に向けて③】自宅を法人の事務所として使用している場合
自宅を会社事務所として使用する
個人事業からの法人成りや、起業したばかりの会社等の場合は、当初は個人の自宅の一部を事務所として使用するようなケースがあるかもしれません。
この場合、会社から個人に対して事務所の賃借料を支払い、会社の経費にすることも可能です。
ただし、いくつか注意点がありますので、以下に主なポイントを挙げておきます。
個々のケースによって検討すべき事項は異なりますので、これらを参考にして、顧問税理士にご相談いただくことをお勧めします。
契約書を作成する
いくら社長と会社との間であっても、賃貸契約書は作成すべきです。
家賃をいくらにするのか、どの部分を賃借するのか、水道光熱費などはどうするのかといった基本的な事項を決めておく必要があります。
家賃をいくらにするか
家賃の金額は、ある程度は自由に決められますが、あまりにも相場とかけ離れた金額ですと税務調査で認められません。
不動産屋や賃貸情報サイトなどを調べて、近隣の家賃相場を確認する必要があります。
事務所として使用するのは一部でしょうから、相場から算出した家賃を、床面積などで按分して、実際に負担する金額を計算します。
なお、もし家賃が相場に比べて高額であると認められた場合、その差額部分については役員給与とされ、源泉徴収漏れや、過大役員給与として取り扱われる可能性がありますので、注意が必要です。
家賃収入の申告
会社が個人に対して家賃を支払うということは、個人の立場からすると、不動産を貸し付けてその賃料を受け取っているということになりますので、不動産所得として個人所得税の確定申告が必要となります。
個人の確定申告の観点からすると、家賃として収受する範囲にもよりますが、自宅が自己所有物件であれば固定資産税や火災保険料、賃貸であれば火災保険料や家賃の一部を経費として算入できる余地はあるかもしれません。
ただし、それでも個人の所得が増えることとなり、所得税や住民税などの負担が増えてしまうため、どちらが有利になるかは検討が必要かと思います。
なお、個人所得税の確定申告をするのであれば、青色申告の適用を検討しても良いかと思います。
賃貸の場合
賃貸の場合は、特に注意しなければならないポイントがあります。
通常、賃貸マンションやアパートの契約は、あくまで居住用としての契約となっています。
オーナー(大家さん)によっては、商用利用を禁止している場合があります。
そのため、事務所として使用するかどうかの前に、法人登記をする段階で、念のため契約書を確認し、大家さんに許可を得たほうが良いケースもあるかと思います。
後々トラブルになることを避けるためにも、最初の段階できちんと確認をしておくことが必要です。
なお、居住用ではなく会社事務所として使用する場合には、基本的には消費税の課税対象となりますので、賃料に消費税を上乗せして支払う必要があります。
貸主が免税事業者の場合は、消費税が免除されることもあるかもしれませんが、この点も注意が必要です。
自宅が自己所有の場合
自己所有の建物の一部を事務所として使用する場合は、大家が自分ですので、会社に対して賃貸するにあたって許可は必要ないかもしれません。
ただし、もしマンションなどの集合住宅の場合は、組合の規約において、事務所としての利用を認めていないケースも多いと思いますので、こちらも念のため確認が必要です。
なお、もし賃借をする場合には、上記の通りその家賃収入について個人所得税の確定申告が必要となりますが、この際に固定資産税の一部や減価償却費などを必要経費として算入することも可能です。
注意すべき点としては、例えば住宅ローン(住宅借入金等特別控除)により取得した土地建物で、いまだ所得税の住宅ローン控除を適用している場合には、一部事業用として使用している部分の床面積に相当する部分は住宅ローン控除の適用はありませんので、按分計算が必要となります。
また、事業用として使用している部分が、総床面積の1/2を超えている場合には、そもそも住宅ローン控除を適用することができないので注意が必要です。
ただし、居住用部分が総床面積の90%以上である場合には、その全てを居住用として住宅ローン控除の適用ができるものとされています。
さらに言えば、その住宅を売却するような場合に居住用財産の3,000万円の特例がありますが、こちらも事業用部分がある場合は按分計算により事業用部分には適用されないため、注意が必要です。
会社所有の物件を役員に貸し付ける場合
今までご説明してきた例とは反対に、会社がマンションなどを所有し、役員に対して貸し付けるようなケースもあります。
これは一般的な社宅としての節税方法ですが、この場合も役員から一定の賃借料を徴収しなければなりません。
役員から徴収すべき賃借料(社宅家賃)の額は、その家屋の構造(木造化どうか)や、床面積などによって計算方法が異なります。
社宅にすれば必ずしも節税になるとは限りませんし、契約形態など個々の事例によって社宅賃料の額は異なります。
会社所有にして社宅として貸し付ける場合には、事前に顧問税理士との相談が必須です。
さいごに
オーナー会社や中小企業などでは、土地や建物などの不動産を会社と役員との間で賃貸借するようなケースも多いかと思います。
節税のために実施するような場合も多くありますが、税理士と相談せず、独自の判断で安易に賃貸借を開始してしまうと、税務上不利な取扱いとなってしまったり、税務調査で思わぬ指摘を受けるようなことも想定されます。
今回挙げた例に限らず、様々な事例がありますので、実際に始める前にきちんと顧問税理士にご相談いただくことをお勧めします。
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【はじめての決算】
①そもそも「決算」とは?
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【会社決算のポイント】
【会社決算のポイント①】発生主義とは?
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【会社決算のポイント③】短期前払費用を経費に入れる
【会社決算のポイント④】残高を合わせる
【会社決算のポイント⑤】減価償却費を計算する
【会社決算のポイント⑥】少額減価償却資産の処理方法
【会社決算のポイント⑦】固定資産か修繕費か
【会社決算のポイント⑧】棚卸しをして在庫を計上する
【会社決算のポイント⑨】消費税や法人税の期末処理
【会社決算のポイント⑩】その他の決算処理
【法人の決算に向けて】
【法人の決算に向けて①】領収書がない費用を計上しなかった場合
【法人の決算に向けて②】役員に対する貸付金がある場合
【法人の決算に向けて③】自宅を法人の事務所として使用している場合
【法人の決算に向けて④】個人事業で使っていた資産を引き継ぐ
【法人の決算に向けて⑤】法人設立前の費用を忘れずに計上する
【法人の決算に向けて⑥】開業費を経費に算入する
【法人の決算に向けて⑦】法人設立前の売上については、個人で確定申告が必要
【法人税の申告調整】
【法人税の申告調整①】役員報酬を期中に減額した
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【法人税の申告調整③】交際費の計算(区分)
【法人税の申告調整④】貸倒損失
【法人税の申告調整⑤】税金の調整(費用になるもの、ならないもの)
- 決算や申告がはじめての法人のお客様へ
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このシリーズでは、簿記や経理をある程度理解している方を前提として、決算整理の際に注意すべき点をご説明していきます。
基本的には、帳簿だけをご自身で作成して、決算書や税務申告書の作成を税理士(会計事務所)に依頼しているような方を対象としてご説明します。
「どうせ赤字だから、決算や申告が少しくらい間違っていても大丈夫だろう」
「うちは規模が小さいから、税理士や会計事務所に頼むまでもない」
「会計ソフトを使えば自分でも作れそうだから、わざわざ高い報酬を払ってまで税理士に依頼するのがばかばかしい」・・・実際にこういったお話をお聞きすることも多いです。
しかし、間違いが多い決算申告では銀行にも税務署にも信用されませんし、経営判断や節税対策には全く使えません。
また、個人事業の確定申告と比べると、法人の決算や申告は格段に難易度が高くなりますので、ご自身で正しい決算申告をすることは非常に難しいと思います。私どもの事務所では、お客様の方で会計ソフトへの入力が済んでおり、決算や税務申告だけを頼みたいというご依頼もお引き受けしております。
もちろん、会計ソフトへの入力まで丸投げしたいというお客様や、日々の節税相談をご希望のお客様、更には過去数年分の申告をまとめて依頼したいという法人の方も、ぜひ一度ご相談ください。